第1回 アスベスト発覚編
皆さん、こんにちは! 富山県で不動産賃貸事業を営んでいる元サラリーマンで大家の多喜裕介です。この連載では、私が3年半を費やして挑んだアスベスト訴訟について伝えます。
これは、アスベスト(石綿)の存在を知りながら私に物件を売却した売主に対して起こした訴訟です。
入居者の退去が発端
さて、今回は訴訟に至った経緯について話します。2020年5月に退去する入居者(売主所有の時期に入居)と、どのように退去精算の取り決めをしていたのかを調べるために賃貸借契約書を確認しました。その重要事項説明書の構造欄に「軽量鉄骨造石綿スレート葺ぶき2階建て」の記載を見つけたことがすべての発端でした。
この賃貸借契約書に署名・押印しているということは、売主はこの時点でアスベストの存在を知っていたことになります。売買時に売主からアスベストの存在の説明がなかったため、改めて売買契約書はどうだったのかを確認したところ、物件状況確認書の「石綿使用調査結果の記録」の欄は「無」にチェックされ、備考欄は空欄のままでした。
調査していなくても、アスベストの存在を知っているなら、備考欄に書くべきでしょう。この時点で頭をよぎったのは「アスベストの存在」を知ってしまったが故に、売却する際に告知義務が発生し、物件価格が大幅に下がってしまうのではないかということです。
売り物件情報でもたまに見かけるのですが、「アスベスト有」と記載されている物件は長期間掲載された挙げ句、超低価格で買いたたかれるようです。
判例を探し訴訟を提起
私も売却時には、同じ目に遭い多大な損害を被ってしまうのではないかと思い、急いで知り合いの弁護士に相談しました。弁護士によると、まずは本当にアスベストが存在しているのか専門事業者に依頼して調査してもらってくださいとのことでした。その間、弁護士にはアスベストについての裁判例を探してもらいました。
今回問題となっているアスベストは、一般的にイメージされている鉄骨などに吹き付けられているものではなく、屋根材のスレートや外壁のように製造過程の原料として使用された「石綿含有成形板」です。
このようなアスベスト含有建材について争われた裁判例は数が少なく、弁護士が調べた限りで見つけられたのは、某宅配事業者が購入した土地に、アスベスト含有スレート片が埋まっていたことによる損害賠償請求訴訟で、85億円の賠償が売主企業に命じられた判例だけでした。
こんな高額な賠償を命じる判例があるのであれば、私も訴訟で勝てるのではないかと思い、訴訟準備を開始した次第です。
次回はどのように準備したのかを伝えたいと思います。
多喜裕介
32歳で不動産賃貸事業を始め、34歳で独立した元サラリーマンの大家。現在、アパートを中心に15棟112室と太陽光発電所2基を所有。著書に「田舎大家流不動産投資術 たった3年で家賃年収4700万円を達成した私の成功法則」(合同フォレスト)や、「田舎大家流『新築×IoT』不動産投資術 新築アパートはスマートホームで成功する!」(セルバ出版)がある。
アスベストとは
アスベスト(石綿)は天然の鉱物繊維で、かつては建材などに広く利用されていた。しかし発がん性が問題となり、現在では、原則として製造・使用等が禁止されている。石綿含有成形板には以下のようなものが存在。
石綿含有スレート
石綿含有化粧石こうボード
(出所)国土交通省「目で見るアスベスト建材」を基に地主と家主で作成
(2024年5月号掲載)
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