第3回 アスベスト訴訟一審・前編
多くの人は民事訴訟の経験がないと思いますので、今回は一通りの流れを説明します。
判決までの手順
原告(著者)側が訴訟提起後、被告(売主)側は第1回口頭弁論期日までに答弁書を提出します。
被告の答弁書に書かれている主張に反論するための準備書面を原告が提出すると、それに反論するための準備書面を被告が提出。次の期日以降は、こうした準備書面の応酬を繰り返します。この際、片側からの準備書面の提出期間は約1ヵ月~1ヵ月半ぐらいです。
訴訟に時間がかかるといわれる理由はこの点にあります。今回のアスベスト(石綿)訴訟ではこの準備書面による論争に約2年半かかりました。
主張や証拠が出尽くし、論争が終わったタイミングで、原告・被告が裁判所に出廷して本人尋問が行われます。テレビドラマなどでよく見かける尋問ですが、これは基本的には終盤に1回のみ行われるものです。
その後、双方が最終準備書面を提出して弁論が終結し、裁判所から判決が言い渡されます。
初めてこれだけ大きな訴訟を行うとなると、いくら弁護士がついているとはいえ、失敗は命取りとなります。そのため、私の物件で退去後に原状回復費用を払わなかった退去者を相手に、リハーサルとして本人訴訟(弁護士なし)で訴訟を行い、自分なりの予行演習を積んでからアスベスト訴訟に臨みました。
答弁に対し証拠を積み上げる
2021年1月より訴訟が開始したのですが、「賃貸借契約書に被告名で署名・押印をしたのは、被告の妻であり、被告は同席していなかったため、該当契約書の記載内容を知らなかった」という、目を疑う答弁書を出してきたのです。
これに対し弁護士は、「署名・押印の許可を与えていたのであれば、許可を与えた責任は被告にある」と反論しましたが、私にとってはあまりにも不誠実な答弁だったので、むしろやる気が出てきました。
売主は建設会社が作成した入居者・不動産会社向けの広告を各部屋に設置していました。その中にも「石綿」の文字があったので、アスベストの存在を認識していた証拠として、これをまず提出します。
また、アスベスト含有成形板を認識していながら売却時に告知しない場合は、重要事項説明における告知義務違反である旨の意見書の作成を不動産事業者数社に依頼。さらに、告知義務違反は債務不履行ないし不法行為が成立した裁判例と併せて証拠とします。
極め付きとして、アスベスト含有建材が瑕疵であると認められた判例がないかインターネットで検索。
解体前提で購入した建物に使われている塗料や断熱材にアスベストが含有し瑕疵と認められた裁判例が2件あったので、これも証拠として提出し畳みかけ、判決に向けて対応を重ねていきました。
多喜裕介オーナー
32歳で不動産賃貸事業を始め、34歳で独立した元サラリーマンの大家。現在、アパートを中心に15棟112室と太陽光発電所2基を所有。著書に「田舎大家流不動産投資術 たった3年で家賃年収4700万円を達成した私の成功法則」(合同フォレスト)や、「田舎大家流『新築×IoT』不動産投資術 新築アパートはスマートホームで成功する!」(セルバ出版)がある。
(2024年7月号掲載)
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