不動産ビジネスで地域創生:地域貢献を念頭に事業展開

土地活用賃貸住宅#社会貢献#福祉#土地活用#企業の取り組み

厳しい時代を支えた不動産賃貸事業
地域貢献を念頭に次の100年目指す

神奈川県平塚市は太平洋に面した湘南エリアの中央に位置する中核都市。古くから多くの工場が操業され発展してきたこの町で、創業100年の歴史を誇るのが木村運送(神奈川県平塚市)だ。同社は湘南地区の有力運送企業であると同時に、地域で複数の土地活用事業を展開。地場企業として地域に貢献している。

木村塁取締役 (35)

売上は運送事業の1・5倍 定期借家のサ高住で安定収入

 同社は、関東エリアを中心にBtoB(企業間取引)向けの物流事業を展開している。扱う商品は、化学工業品がメインとなっている。
 その一方で、地域に根差した老舗企業としての強みを生かして行っているのが土地活用事業だ。本社オフィス、商業テナント、駐車場、高齢者向け住宅、福祉施設など幅広く展開しており、今ではこれら不動産賃貸事業の収入が本業である運送事業の売り上げの1・5倍規模にまで成長しているという。

 その一つが2000年に竣工した牛丼チェーン店「吉野家」の店舗だ。国道1号線沿いのロードサイド店舗として定期借家契約を結んでいる。

 もう1棟は、19年竣工の7階建てRC造のサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)。学研ココファン(東京都品川区)と契約した全59戸の物件で、デイサービスを行う事業所も併設した規模の大きな物件となっている。長期間の定期借家契約で安定した賃料収入を得ているという。

 未来の4代目として経営手腕を振るう木村塁取締役は「平塚市には、すでに賃貸住宅の供給が十分あり、よほど差別化できていないと入居者を獲得できないと考えていました。そこで、あえて非住宅での土地活用を推し進めていったのが奏功していると思います。また当社が困難な時代を支えたのが賃貸事業という柱でした」と語る。

高度成長期から規制緩和 創業以降に経験した光と影

▲JR東海道本線平塚駅から徒歩7分の立地にあるココファン

 1924年、皇太子(のちの昭和天皇)のご成婚に沸いたというその年に同社は創業した。当時から工場が多かった平塚エリアの特性に合わせ、化学薬品に特化した運送事業をスタートしたのだという。
 その後、長い戦禍を乗り越え、戦後の1960年代には、高度成長期という時代を追い風に取引先を増やし、運送事業を拡大していった。当時、自社保有のトラックは50台、従業員は100人ほどを抱えるまでになった。

▲ココファン共用部。快適な福祉施設を建てることは地域貢献になる

 さらに、従業員向けの社宅用地や駐車場用地を購入していく中で、71年には本社ビルを竣工。一部をテナント貸しすることになった。これが同社における賃貸事業の始まりだった。以降、近隣の駐車場や社宅など賃貸事業を手がけてきたが、あくまでも本業は運送事業だった。
 そんな同社に大きな影を落とすことになったのが、90年に施行されたいわゆる「物流2法」だった。従来、運送事業は免許制で、開業するのが難しかった。しかし、規制緩和により、トラックと資金があれば誰でも開業できるようになったのだ。

▲市内に複数の駐車場も所有する 

 運送事業者の増加は、たちまち運賃の引き下げにつながった。新規参入者が続々と安価な運賃を提示する中、取引先は安い事業者への切り替えを始めた。大手であれば薄利多売でもやっていけるが、中小企業では続かない。同社は、価格競争には参戦せず、質を担保するために必要な金額を提示し、納得してもらえる取引先のみと付き合いを続ける道を選んだという。だが、価格競争はすさまじく、同社の売り上げは大幅な減少を余儀なくされ、苦難の日々が続いた。

賃貸収入を後ろ盾にする 社内IT化や強気の営業

 木村取締役が家業である同社に入社したのは2014年のことだった。伯父・木村収一代表取締役の後継ぎである4代目候補として名乗りを上げた。

 入社後、木村取締役が真っ先に進めたのが社内のIT化だった。中でも、大きな改革は200万円を費やして公式ホームページを制作したことだ。同社のようなBtoB型の中小運送会社では、こうしたホームページをつくること自体がまだ珍しかった。だがそれだけに、他社に先んじて情報がわかりやすいホームページを制作したことで、好評を得ることができた。現在、多くの新規顧客はホームページ経由で直接問い合わせをしてくるそうだ。

 木村取締役自身は、同社に入る前は、大手情報機器販売会社で法人営業を行っていた。そのサラリーマン時代に培った営業力を武器に、新規取引先の開拓にも力を注いだ。そうした努力の結果、一時はどん底にまで落ち込んでいた業績が回復。木村取締役が入社して10年、同社の売り上げも10倍にまで伸びたという。

 最初の5年は業績を上げるためにがむしゃらに働いたと笑う木村取締役だが「私が好きなように動けたのも、賃貸事業による安定した収入があるからです」と話す。

地域とのつながりを強める サ高住の建築を手がける

 会社の業績が持ち直していく中、木村取締役は地域とのつながりを強めていった。具体的には、地域の高齢者や障がい者の住居を確保するために福祉への進出やサービスの展開を行った。

  きっかけは、商工会議所の団体活動の一環で障がい者と関わりを持ったことだった。民間企業として利益を追い求め続けてきたが、ふと「地域貢献」の4文字が頭に大きく浮かんだ。「もうけることだけではなく、事業には福祉の心が必要ではないか」と感じた。同時に、これから福祉事業は確実に伸びていく分野だという確信もあった。

  この考えを反映したのが、平塚駅前に竣工したサ高住だ。地域に必要な福祉施設を造れば住民が喜ぶ。会社としては、安定的な収入を得ながら、金額の大きな融資が相続対策にもつながる。「他者に目を向けることが、結果として会社の利益にもなると考えます」と木村取締役は話す。

新規事業を立ち上げ 今後は福祉がキーワード

  24年5月、100周年事業の一環として、新たな事業を立ち上げる。それが障がい者の就労支援だ。

 同事業向けに、本社ビルの一部を作業場に改装した。作業場では、市内に住む障がい者にボールペンや段ボールの組み立てなどの軽作業をしてもらう。一般企業で就業するのが困難な障がい者に対して自立への支援を行うと同時に、同社は就労継続支援B型事業所としての給付金を受けながら事業を行うことができる。

 将来的には、医療モールの福祉版ともいうべき物件も造りたいという。「一つの物件に、サ高住、就労施設、デイサービス施設がある、福祉施設が一体となった、まだ全国どこにもないようなビルを造っていけたら」と夢を語る。

木村塁取締役 (35)
1989年神奈川県小田原市生まれ。法政大学人間環境学部卒業後、光通信グループ会社にて法人営業に従事。2014年、木村運送に入社。バックオフィス業務管理など経験後、19年、取締役就任。

会社概要
商 号 木村運送
創 業 1924年
設 ⽴ 1954年
資本⾦ 1,000万円
役 員 代表取締役 ⽊村 収⼀氏 取締役 木村 塁氏、⼤村 悦⼦氏
事業内容
⼀般区域貨物⾃動⾞運送事業 /貨物⾃動⾞運送取扱事業 /⾃動⾞修理加⼯事業 /不動産賃貸事業 /駐⾞場事業

(2024年9月号掲載)

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