【連載】パリの賃貸不動産事情 第8回

土地活用

第8回 歴史のある賃貸物件ならではの風景

▲窓から見える風景。屋根ではよく修繕工事が行われている

 ボンジュール、坂田夏水です。私は今、パリ6区のサン・ミッシェル広場近辺の賃貸物件に住んでいます。この家は契約に至るまでが大変でした。

物件の情報と価格相場

 私が住んでいる建物は、かつてオーナーが一棟丸ごとホテルとして運営していました。そこから264年が経過し、今もなお同じオーナー一族が所有し続けています。

 5階建てで延べ床面積1456㎡、現在は31戸の賃貸物件です。そのうち10戸が事務所を含む法人契約で、常駐の管理人が建物内にいます。

 こういった情報は、フランスの不動産情報が公開されているサイトで調べることができます。

 また近所の物件の売買履歴を知りたいときは、政府が公開しているサイト「DVF(デーヴェーエフ)」で確認することが可能です。このサイトでは、過去に取引があった物件の広さや所在階、売買された年の価格を公開しているため、調べたい地域の物件価格の相場がわかります。

癒やしの空間である中庭

▲通りに面した大きなドアの奥にプライベートな中庭がある

 わが家があるアパルトマンにはパリ中心部としては比較的大きい中庭があり、癒やしの空間になっています。住人だけが入ることのできるプライベートな場所で、管理人が日々きれいに手入れをしてくれています。

▲中庭は住人の癒しの空間

 クリスマスの時期にはツリーにデコレーションが施され、定期的に住人同士で料理やお菓子を中庭に持ち寄って、夕食の前に軽くお酒を飲みながら会話を楽しむ「アペロ」が開催されます。そのため、住人は皆顔見知りで仲が良く、「今からお茶を飲みに来ないか」と誘われたり、子どもの友だちが遊びに来たりして、中庭を通して交流しています。中庭側は景色が良いためかカーテンを閉めない家も多く、窓越しで話をすることもあります。

歴史ある景観を守る

 建物の最上階の4階(日本の建物の1階をこちらでは地階と呼ぶため)に私の住居はありますが、近隣も同じような高さのため、窓から遠くまで見渡すことができます。生活してみてわかったことは、パリの建物の屋根と外壁は年中補修工事を行っているということ。窓の外に広がる屋根の上では、よく職人を見かけます。

▲「この通りは1588年からあります」と示す標識 

 私の家はカルチェ・ラタンと呼ばれるパリの中でも古い地域にあり、フランス革命が起こった1789年にはすでに街並みが出来上がっていました。当時のまま残っている建物も多くあります。私の家があるアパルトマンもその一つで、資料によると60年に建設されたものです。この資料は、歴史的建造物の情報や推定建設時期が掲載されている「BâtiParis(バティパリ)」というサイトで見ることができます。

 カルチェ・ラタンはもちろんのこと、法規制がある地域の外壁は、景観保全のため10年に1度補修工事を行うことが義務となっています。オーナーの建物メンテナンスにかかる費用は想像を絶するでしょう。建物を美しく維持し続けることがパリの不動産オーナーの使命なのです。街並み保全のためなのだと考えると、高額な家賃も納得できます。

 また建物の管理人はガーディアンと呼ばれますが、1年前に40年間勤めた人が高齢により退職し、新しい担当者に入れ替わりました。彼女もまたガーディアンとしての長い人生を、引退するまで常駐しながらこの建物と共に過ごしていくのだと思うと、奥の深い世界だなと感じます。

 ガーディアンは建物の保全や清掃だけでなく、依頼をすれば犬の散歩や子どもの学校の送迎も行ってくれたりします。バカンスで家を長く空けるときには、家の中の植物の水やりや清掃も依頼できるのです。日本における管理人とは役割が違います。

【建材紹介】

 当社が運営している、海外の建材や装飾品を取り扱うインターネットショップ「MATERIAL(マテリアル)」がリニューアルしました。

 タイルや壁紙、塗料やドアなど、私が長年の経験を生かして選んだ素晴らしいアイテムが集まっています。
またインテリアのアイデアから施工方法まで掲載しています。

プロフィール

夏水組(東京都武蔵野市)
坂田夏水 代表

1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業。アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、夏水組設立。空間デザインのほか、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン、インテリアショップ「Decor Interior Tokyo(デコールインテリアトーキョー)」、インターネットショップ「MATERIAL(マテリアル)」の運営などを手がける。22 年よりパリで日本の建材店「BOLANDO(ボランド)」の運営を開始、現在パリ在住。

(2024年12月号掲載)

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