著者インタビュー:放置資産がコミュニティを毀損する

土地活用その他建物

放置資産がコミュニティを毀損する
地域社会に放置された家屋・農地・山林をどう管理するのか

管理できない不動産の賃貸や寄付を検討

──管理されないままの空き家・農地・山林といった放置資産が全国で問題になっています。そうした不動産を所有している地主や家主はどうするべきでしょうか。
 放置資産は、そのままにしておくと朽ちていくだけです。地域に住む人々の生活の質の低下や鳥獣被害を招く恐れがあります。まずは利用してもらうことを目的に賃貸を検討してください。空き家のような家屋は、人に利用されることで風が入り、水が使われて、建物を維持することができます。また地方に移住する若者の間では、家を買いたいニーズよりも借りたいニーズのほうが多いです。自治体も補助金を用意するなどして借り手のニーズを掘り起こしています。気になる所有者は自治体に問い合わせてみるといいと思います。

──所有者が貸すことも売ることもできない放置資産は、自治体に寄付をし、管理してもらうことがベストだと提唱していますね。
 私は、主に都会に住む相続人が所有しつつも、扱いに困って地域社会に放置している空き家・農地・山林を「放置財」と定義しています。鳥取県日南町で放置財の問題解決に取り組む中で、山林については、所有者が自治体に寄付をし、自治体が管理すべきだと提案したのです。同町では2017年から23年までに十数人の所有者が約30ヘクタールの山林を町に寄付しました。空き家や農地の場合も相続した所有者が何も対処できない状態で、なおかつ自治体側に受け入れる準備が整っているのであれば、自治体への寄付を検討してみてはどうでしょうか。

──空き家・農地・山林を同時に複数持っている人もいます。
 寄付を受ける場合、自治体は不動産や土地を管轄ごとの縦割りではなく、放置財としてまとめて対処するべきです。所有者も自治体にそう主張してほしいですね。

──賃貸や販売、寄付をするにしても、地主や家主の中には「先祖代々持ち続けてきたものだから」と、ためらう人もいると思います。
 気持ちはわかりますが、ご自身では管理もできずに困っているのが実情でしょう。家屋でいえば、実際に使われてこそ長く持ちます。何も対処されないまま朽ち果てるよりは、利用されたほうが建物にとってもいいはずです。心を整理し、一歩踏み出してください。日南町では、愛着がある地元への感謝の気持ちから「山林を返そう」と寄付を決意した人もいました。

著者:片野洋平
出版社:ミネルヴァ書房
価格:3080円(税込み)

[概要]
管理されないままの空き家・農地・山林などの放置資産が発生する背景や、放置資産の所有者がどういった人々で何を考えているのかを自身の調査・研究結果を基に紹介している。「地域の問題は地域で解決できるはず」として、鳥取県日南町での取り組みを通して「放置資産を自治体に寄付し、自治体が管理する」という方法も提唱する。放置資産を所有する地主や家主は、特に一読しておきたい一冊だ。

 

著者プロフィール
片野洋平(かたの・ようへい)

1974年、東京都生まれ。2009年、上智大学法学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(法学)。上智大学ではごみ問題やリサイクル問題の研究を進める。鳥取大学農学部助教准教授を経て、19年から明治大学農学部准教授。鳥取大学時代に、空き家問題に携わったのを皮切りに、鳥取県日南町にて放置資産問題の研究を続けてきた。

(2024年12月号掲載)

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