【特集】狭小地・変形地の活用法 前編①

土地活用賃貸住宅

変わった形をしている土地や狭い土地でも、工夫次第で容積率を確保したり、個性を打ち出したりすることに成功した物件がある。それらの事例を紹介する。

事例1
最大高低差7mの崖地 基礎工事費用増でも高利回り物件

早川不動産(福岡市) 早川眞市社長(74)

 早川不動産(福岡市)が2024年2月に完成させた「ノヴェル香椎駅東」は、同市東区の住宅地にある約182㎡の敷地に立つ木造2階建て・8戸のアパートだ。

 同物件が建設される以前のこの土地は、最寄り駅から徒歩4分という場所にもかかわらず、南側の道路に面する高いほうと北側の道路に面する低いほうとで高低差が7mある崖地だった。そのため、長年、何も建てられていない状態が続いていたが、同社の早川眞市社長は「土地を売れずに困っていた前所有者の要望を受けて同地を買い取りました」と語る。同社が得意な賃貸運営のために、アパートを建設することにした。

 高低差がある崖地だったため、それを利用する形で、上図のように最も高い地点から2・5m下がった位置でレベルを合わせるために、低いほうの基礎を高くした。また低いほうの斜面には、ずれを防ぐために鋼管杭(くい)を打ち込んだ。

 建物の入り口は、高いほうにある南側道路に面している。そのため、入り口から入って少し下りて1階に、同様に少し上って2階に行く構造になっている。

 このほか、同所は第一種中高層住居専用地域による斜線制限(北側斜線)があった。1級建築士でもある同社の本田信幸常務は「本来は水平の屋根にしたかったのですが、制限をかわすために傾斜を付けました」と話す。

 

 また南側道路との境には老朽化した既存のブロック塀があった。工事の際、当初はブロック塀を壊して擁壁を造る計画だったが、塀を壊して道路が壊れるのを防ぐために、ブロック塀を残したままコンクリート擁壁をかぶせる工夫もした。

 建物は延べ床面積約197㎡。各戸ともスキップフロア式ロフト(10㎡)付きワンルーム(22㎡)だ。共用部にオートロックや360度の防犯カメラを設置するほか、光インターネットも無料で使うことができる。

 北側の擁壁兼用の高基礎や南側のコンクリート擁壁、基礎の杭工事などを含めて、基礎工事と建物本体で平地に比べて建築費は2割程度割高になったが、完成後は大学生や社会人など女性入居者が多く、すぐに満室に。家賃は1階の住戸が4万6000円(別途共益費4000円)、2階の住戸が5万1000円(別途共益費4000円)だ。現在は自社物件だが、販売した場合、利回りは6・3%だという。

 

事例2
横に長い台形の敷地 敷地分けた2棟建てで天空率用件活用

 早川不動産が土地を取得し、グループの建設会社を通して18年10月に完成させた賃貸マンション「リラス博多駅北N棟・S棟」も変形地を活用した物件だ。

 同物件は、同市博多区の吉塚エリアに隣接し、JR鹿児島本線の線路沿いに立つ。

 

 

 元々の敷地は面積が約660㎡で、幅約60m、奥行きは長いところで約15m、短いところで約7mの横に薄く伸びた台形のような形だった。「近隣への説明時に近くの住民から『こんな横長な土地にわざわざ建てるのか』と言われるほどでした」(本田常務)という。その敷地に1棟建てのマンションを建てるとすると、道路斜線制限のため、4階建てで延べ床面積約796㎡程度の建物しか建てることができなかった。

 そこで本田常務は、敷地を二つに分け、それぞれで1棟を建てるプランを思い付いた。これにより、天空率と呼ばれる斜線制限の適用を受けない規制緩和が活用できることがわかった。それに伴い、敷地の北側に6階建てのN棟、南側に7階建てのS棟を建築。延べ床面積は2棟合わせて約1596㎡となった。1棟建ての場合と比べてエレベーターも2基必要になったので、その分、建築費はかかったが、本田常務は「賃貸面積が2倍となり収益も2倍近くになっています」と語る。

 N棟は1Kが中心の19戸(そのうち2戸はウイークリーマンション)。日影規制を避けるには、シャフトが屋上レベルを超えないようにエレベーターや、外部階段を5階までしか設けることができなかったため、5~6階を2LDKのメゾネット(2戸)にする工夫もした。S棟は1Kと1LDKの合計25戸。現在、家賃はN棟の1Kが4万8000円、2LDKが11万8000円、S棟は1Kが5万3000円、1LDKが6万円で、それぞれ満室となっている。利回りは7・9%だ。

(2025年3月号掲載)
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