変わった形をしている土地や狭い土地でも、工夫次第で容積率を確保したり、個性を打ち出したりすることに成功した物件がある。それらの事例を紹介する。
事例3
変形地・狭小地の二重苦 30坪でも6戸のメゾネット
ビーフンデザイン一級建築士事務所(東京都渋谷区)進藤強代表取締役(52)
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ビーフンデザイン一級建築士事務所(東京都渋谷区)が13年11月に完成させたのが、京浜急行電鉄本線雑色駅から徒歩9分の場所に立つ「cocolo(ココロ)」。
敷地は約96㎡で狭く、学校と住宅地に囲まれた三角形に似た変形地だった。出来上がった建物は、木造3階建てで延べ床面積は約179㎡。いずれもメゾネットタイプで1SKやワンルームなど6戸だ。
通常の同規模物件と比べると建築コストが1、2割程度高くなったが、設置面積が小さくて済むらせん階段を効果的に配置した。
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▲cocoloの外観[撮影:平井広行]
また進藤強代表取締役は「何か土地の魅力を引き出す建物を建てることができないかと考えました」と語る。
注目したのが、目の前にあった小学校のグラウンド。「夜は誰もいなくなるので、静かな開けた空間です。入居者だけが味わうことができる都会のオアシスになると考えました」(遠藤代表取締役)
居室が1階や3階にあるタイプに分かれるが、全住戸のバスルームを2階にそろえた。夜間に開けた空間となる景色を見ながら入浴できるようにしたのだ。建物が狭いためバルコニーは設けず、インナーバルコニーの雰囲気を味わえるように各戸のバスルームとも大きな窓ガラスを設置した。これらの特徴が人気を呼び、同物件は現在満室となっている。
- ▲︎とがった形の建物北側部分[撮影:平井広行]
- ▲︎開放感がある2階のバスルーム [撮影:平井広行]
事例4
防火・準防火地域のL字形 用途境活用のため敷地分割し2棟建てに
進藤代表取締役は「変形は変形でも、意図的に狙ったものもあります」と語る。用途境をうまく活用した「Maison De Kiitos(メゾン・ド・キートス)」がそうだ。
同物件は、都営地下鉄三田線西巣鴨駅から徒歩6分、住宅や商店が密集した場所にある。
建物は木造長屋の2棟建てで、A棟が敷地面積約53㎡、B棟が約65㎡。延べ床面積はA棟が約84㎡、B棟が約56㎡で、住戸はそれぞれ3戸と2戸だ。
敷地はL字形をしており、近くに商店街があるため、右の図のように一部が防火地域、他方が準防火地域にかかっていた。
- ▲Maison De KiitosA棟外観[撮影:平井広行]
- ▲奥にあるのがB棟 [撮影:平井広行]
進藤代表取締役はまず、防火地域にかかっている場所にRC造の共同住宅を検討したが、前面道路が狭く電柱もあり、大型ミキサー車が入らない。一方、準防火地域の敷地だけを使って建物を建てると、防火地域の敷地がもったいない。そこで、敷地を分割してそれぞれに1棟ずつ建てることにした。
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防火地域には2階建てのB棟を、準防火地域には3階建てのA棟を建築。進藤代表取締役は「木造の1棟建てであれば、防火地域にかかる部分に建てると敷地を広く使える一方、2階建てまでしか建てることができません」と語る。またRC造だと4階建てが検討できたが、建築費用が木造と比べて1・5倍以上になることが予想された。
A棟はロフト付きトリプレットで全室約28㎡、2階と3階に床から天井まである大きな窓を設けているのが特徴だ。B棟はロフト付き2Kで全室約28㎡、天井高が4m超あり、人気を集めている。現在は満室だ。
【愛媛県松山市内の18坪にロフト付き3階建て長屋】
ビーフンデザイン一級建築士事務所
- ▲SPIRAL外観
ビーフンデザイン一級建築士事務所は、地方の変形地、狭小地における物件の設計も手がけている。
そのうちの一つ、愛媛県松山市に2013年3月に完成した「SPIRAL(スパイラル)」は、わずか約60㎡の敷地に立っている。
建物は木造の長屋で全4戸。間取りは3層のロフト付きメゾネットで各戸の専有面積は約30㎡。ブラインドが上がっていれば、室内のらせん階段が外から見えるほど各層の大きな窓が特徴だ。
進藤代表取締役は「地方は土地が安いので、2階程度の建物を建てて、全体のコストを抑える例が多いですが、同物件の家主は狭小地ゆえ土地を安く取得できました。その分、建物にお金をかけたのです」と語る。仮に2階建て・4戸だと各戸20㎡となるところだったが、同物件は30㎡を実現。コストアップになるが鉄骨のらせん階段も採用した。
また進藤代表取締役は「同家主は、この建物でどのような生活ができるかがはっきりと伝わるように、建物が一番かっこよく映える夜間に室内の照明を全部点灯させて内見者を受け入れる力の入れようでした」と語る。完成から10年以上経つが、空室が出てもすぐに次の入居が決まるという。
(2025年3月号掲載)
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