がんばる地主①:設備で差別化

土地活用賃貸住宅

賃貸経営において、周辺の物件との差別化を実現することは大きな課題となる。個性的な物件を作り、魅力をアピールすることで安定経営を実現している2人の地主から、そのこだわりを聞いた。

「自分が住みたい家」で集落をつくる
注文住宅レベルの設備で差別化

榎本稔オーナー(54)(埼玉県富士見市)

 榎本家は、東武鉄道東上本線みずほ台駅から徒歩10分前後のエリアで、代々農業を営んできた。榎本稔オーナー(埼玉県富士見市)によれば、さかのぼれる記録の分だけでも自身が14代目に当たるという。
 18年前に先代が亡くなり、専業農家としては廃業。当時医療器具メーカーに勤めていた榎本オーナーが土地を相続した。3年後の2011年、所有エリアが市街化調整区域から市街化区域に変更されたことで、農地として所有している土地に、宅地並みの税金が課されるようになった。これが、土地活用について考えるきっかけだった。
 当時会社員だった榎本オーナーは、まずは知識を身に付けようと不動産コンサルタントの資格を取得。競合や周辺市場の調査を始めた。その中で、利益重視の似たような賃貸物件を見て「ときめかない」と感じたという。
 「投資という視点で見れば、いかにコストを下げて利回りをよくするかが大切です。しかし、せっかく自分の土地で賃貸経営をするのなら、自分が住みたくなるような物件を造ろうと思いました」(榎本オーナー)

理想は一つの集落をつくること デザインと設備にこだわり

 13年6月、榎本オーナーは最初の賃貸住宅を建設した。1棟2戸の木造テラスハウス3棟だ。
 注文住宅レベルの設備にこだわり、一つ一つコストが発生する窓やコンセントも、必要だと感じる分を惜しまず付けた。延長コードやたこ足配線が要らない部屋を目指したという。
 「当時、勤め先でスポーツ医療関連の製品を扱っていたので、ばんそうこうのような10円単位の商品も売っていました。そのため、賃料の十数万円がとても高額に感じ、それに見合った商品を提供しなければならないと思ったのです」(榎本オーナー)
 最初に計画した「en village(エン・ヴィレッジ)」シリーズは、北欧風の赤い外壁が特徴的だ。一部の住戸は中庭や屋上付きで、賃貸住宅としては珍しい仕様になっている。

 法律や部材の仕様が変更されないうちにと、16年11月までに、計15棟を建てた。外観に統一感を持たせ、一つの集落のように見せるためだ。
 当時、同エリアには、2LDKで8万円前後の物件があった。その中で、同様の間取りで10万円前後での募集をかけた。最初は仲介会社から「エリアの客層に合わない」と指摘を受けたが、見学会を開き設備を見てもらうと、一転して「これなら決まる」と言われた。
 入居者の中には不動産関係者や建築関係者も多く、榎本オーナーは「プロの人が住みたいと思える物件ができたということだと思っています」と話す。
 建設から12年がたった今でも、退去が出ると1カ月半程度で次の入居が決まる。

積極的な修繕で空室期間短縮 築古でも家賃を下げない工夫

 榎本オーナーは、20年勤めた会社を15年に退職。現在、専業オーナーとして15棟35戸を所有している。
 築10年を過ぎた頃から、空室ではクリーニングのほかにクロスの貼り替えを行うようにした。室内に吹き抜けがあり、足場が必要な場合もあるため、総額で40万円近くかかることもある。
 しかし、修繕を先延ばしにせず美しい状態を保つことで、客付けのスピードは速くなる。空室期間が1カ月短くなれば1カ月の賃料10万円分の収入が得られるため、すぐに回収できると見込んでいる。
 「賃貸経営を行う上で、お金をかけてでも建物をいい状態に保つことにこだわっています。良い物件をきれいな状態で貸し出せば、入居者も丁寧に住んでくれますし、築古になっても賃料は下げなくていいのです」(榎本オーナー)
 その言葉通り、建設当時から賃料は下げておらず、むしろ物価上昇や周辺の開発に伴い上がっている。

▲en villageシリーズは北欧風の赤い外装が特徴(撮影:ロハス・リビング)

時代の変化や相続への課題 土地を残していく使命感

 榎本オーナーが所有する物件が周辺の相場よりも高い賃料で入居が決まる理由の一つとして、エリアを絞らずに納得のいく物件を探していて行き着く入居者が多いことがある。だがその一方で、今後の客付けに対してやや不安を感じているという。ポータルサイトではそうした客層を取り込みづらいのだ。
 「ポータルサイトでは最寄り駅や家賃のような条件で物件を絞り込みます。デザインや細かな設備へのこだわりは伝わりづらいのです。私が所有する物件は、こうした状況では顧客にリーチできないのではないかと感じています」(榎本オーナー)
 最寄りのみずほ台駅は、池袋駅から東武鉄道東上本線で40分前後かかる。東京都心部からのアクセスがいいとはいえない場所だ。運用について口にすると、コンサルタントや知人からは、今の土地を売って都心の土地に財産を組みかえてはどうかといわれることもある。
 「ここは榎本家が代々受け継いできた土地で、私の代で安易に売るわけにはいきません。跡継ぎの苦労は跡継ぎにしかわからないと感じます」と話す榎本オーナー。相続後、行政の開発にかかった土地以外は、一切売らずに守ってきた。3人の子どもたちに引き継ぐまで、榎本家の土地を守りたいと語る。
「地主というと『不労所得』という言葉が浮かびますが、賃貸経営は不労で生き残れる業界ではなくなってきています。労力を惜しまず、次を見据えて動いていきたいです」(榎本オーナー)

(2025年6月号掲載)
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