民泊研究:空き家を宿泊施設へ再生

土地活用その他建物

空き家を五つ星ホテルより高評価の宿泊施設へ再生

「和」を感じる施設

 大阪市の繁華街・心斎橋。大手百貨店の大丸心斎橋店を含む服飾店や飲食店など約180店が軒を連ね、多くの買い物客が訪れる人気の街だ。

 そのにぎやかな心斎橋エリアにあるにもかかわらず、落ち着いた雰囲気の宿泊施設として人気を集めるのが「今昔荘」。外国人が好む和を前面に打ち出した室内には、料亭のようなダイニングテーブルを設置。棚には日本酒が並び、酒だるもインテリアとして採り入れている。ビルの屋上には和風庭園、そしてひのき風呂がある。屋上露天風呂になっており、まるで高級旅館のようだ。

ファンバウンド(滋賀県野洲市)
大門拓童代表取締役(41)

 この高級民泊を展開しているのが、ファンバウンド(滋賀県野洲市)だ。3月末時点で10カ所を運営、2025年中にオープン予定の施設も含めると14カ所となる。エリアは大半が大阪市内で、奈良県に1カ所、25年には沖縄県にもオープンする。

黒塗りの入り口は長屋をほうふつさせる

 

 「当社が対象としているのは5〜10人で泊まることができる宿泊施設を探す外国人です。宿泊料は1人あたり大体2万円ぐらいで、1宿泊施設あたりですと10万〜20万円になります。素泊まりで考えてもシティーホテルよりも部屋単価が高いようなマーケットなので、それでも予約してもらえるような作り込みを常に考えています」。こう話すのは、同社の大門拓童代表取締役(以下、代表)だ。

高級旅館のような内観


 事業を始めて7年目となるが、その成果があって、さまざまな検索サイトを利用するユーザーからの評価は高い。しかも五つ星ホテルよりも高い評価を得る施設もあるくらいだ。 

 同社の場合、オーナーと三つのパターンで契約し運営を代行している。①オーナーはファンバウンドと建物賃貸借契約を結び、ファンバウンドは設備費負担と運営を行う②オーナーは民泊に投資したい投資家と建物賃貸借契約を結び、投資家がファンバウンドに運営を業務委託する③オーナーがファンバウンドと業務委託契約を結び運営だけ任せる。最もオーナー負担の大きい③で15%の利回りを得ることが可能だという。

 さらにオーナーへの家賃支払いについては、売り上げに連動した家賃契約をスタート当初から取り入れている。

スタートは荷物預かり所

 エンジニアリング会社に勤務し、海外駐在が長かった大門代表。16年に帰国して始めたのが、旅行客の荷物預かり所だった。大阪メトロ御堂筋線なんば駅近くのビルの8階に事務所を借りて始めたが、それだけでは集客できないため、民泊のチェックイン代行も始めた。

 折しも同年10月に大阪で特区民泊が解禁。2泊3日以上であれば、合法的に民泊営業ができるようになった。そこで、民泊運営事業者が一気に増えたが、ガイドラインに、宿泊客の本人確認をしてから鍵を渡すという事項があり、大門代表はチェックイン代行事業の仕事が増えた。当時、難波付近にある300室ほどの民泊の事業主から仕事を受託。チェックイン業務代行事業と荷物預かり事業の二つの事業を柱に経営していた。
仕事が増える中、どの属性の旅行客がどのような民泊施設を予約しているのか、さらに、どのような物件が収益性が高いのかがわかるようになってきた。そこで、次第にマーケティングをするようになり、その結果をまとめてつくったのが現在展開する今昔荘なのだという。

 同社は18年6月に第1号となる民泊施設を道頓堀で開業。その際に宿泊需要は中心地にあるということはわかったが、資金面で問題があった。不動産の仕入れを考えたときに空き家や空きビルでないと難しかったのだ。だが、空き家、空きビルは古さが際立つ。そこでその古さを逆手に取った。その土地の歴史からコンセプトをつくりレトロな旅館をイメージした建物にしたのだ。

 

 これだけデザインにこだわっているため、オーナーは工事費用3000万円が必要となる。

 集客は宿泊マッチングサイトを利用しているが「インスタグラム」にも注力。専属のスタッフが担当し、1万2000人のフォロワーを獲得している。「これからの時代はインスタが集客に重要な役割を果たします。今はブランディングとして活用しています」(大門代表)

 今後は関西だけでなく、東京への進出を考えている。またフランチャイズチェーン(FC)展開を計画しており、エリア拡大を図る。

(2025年 6月号掲載)

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