土地オーナーとのマスターリース契約①

土地活用その他建物

二人三脚のホテル運営で規模拡大中

土地オーナーとのマスターリース契約によるホテル運営で、全国にそのネットワークを拡げているのがベッセルホテル開発(広島県福山市)だ。現在、同社が運営中のホテルは、北海道から沖縄まで全国で36施設5640室に及ぶが、そのほとんどはオーナーが土地または土地と建物を所有して、同社がオーナーとリース契約を結んだ上で経営・運営されているものだ。

ベッセルホテル開発(広島県福山市)
瀬尾吉郎社長(46)

全国36施設会員数59万人 添い寝無料が反響大

 現在、同社が全国で運営しているホテル36施設中、自社所有物件は5カ所のみ。建物だけ同社で所有しているケースも5カ所あるが、残りの26カ所は、オーナーが土地と建物を所有したまま、同社がマスターリースを行っている。
 マスターリース契約によって長期契約を結んだ後は、同社が経営・運営の一切を担う。これらの中には新築だけでなく、既存ホテルの取得や賃貸借によるリブランド化の事例も多くある。
 同社は「ベッセルホテル」「ベッセルイン」をはじめ数種のブランドホテルを運営しており、グレードや価格帯は様々だが、概ね、平均客室単価は1万4000円、稼働率は87%と90%に近い高稼働率をキープしている。
 また同社では、全店共通で高校生までの子どもの添い寝が無料となるユニークなサービスなども行っている。こうしたサービスの人気も口コミで広がり、新型コロナ禍における苦境も乗り越え、好調に稼働率を伸ばしている。
 「コロナ前の稼働率は90%。それがコロナ禍では55%まで下がりましたが、今は87%に戻り単価も上がっています。おかげさまでホテル利用の会員様が直近で59万人まで増えて来ており、これを今後、100万人にまで増やそうとしているところです」(瀬尾社長)

高田馬場の駅チカに出店 90%以上の稼働を維持

 同社が本格的にホテルの全国展開を進め出したのは2000年からで、その後20年間は平均してほぼ年1施設のペースで増やしてきた。コロナ禍でホテル市場全体が大打撃を受けた2020年以降にはむしろ新規オープンが増えており、4年間で11施設1729室をオープンしているが、そのいずれもが現在、高稼働で運営されていると瀬尾吉郎社長は話す。
 「まさにそのコロナ禍の真っ最中に工事が始まり、2023年3月にオープンしたのが、東京・新宿区の『ベッセルイン高田馬場駅前』です。地上13階地下1階建て、ホテル客室は160室ありますが、お陰様でオープン以来90%以上の稼働率で推移しています。また場所柄、普通の商売が成り立つところだったので、1階にはドラッグストア、地下には歯科医院が入居されています。オーナーさんは個人の方なのでビル全体の管理もお願いしたいとのこと。そこで、当社が全部マスターリースでお借りして、共用部の清掃や建物の維持管理までやらせていただいています」
 この土地のオーナーは、古くは菓子屋の商売をしていたが、昭和40年代に貸ビルを建て、最近ではスーツショップなどにテナント貸しをしていたという。しかし、母親が高齢になり、相続対策の必要が出て来たため、ビルの建替えを計画。近くにホテルがなかったことから、その検討をする中で、同社も候補の1社に選ばれたという。ちなみに、同社が新築でホテルを開業する際には、東京都内や地方でも都市部で駅前立地型、延床面積3000㎡以上を基準にしている。この物件は地下鉄直結で延床4700㎡というまさしくこの条件にピッタリのベスト案件。当然、競合も多かったが、同社が勝ち取ったという。
 「他に競合した会社は当社よりずっと有名で大手のホテルチェーンさんでした。しかし、オーナーさんがおっしゃるには、他社から来たのは部長クラスの人だったが、ベッセルは社長自ら来てくれたと。『ホテルの社長というから、ヴィトンのバッグで来るかと思ったら、普通の安いカバンを持った普通の人でしたね』と(笑)。それですごく好感を持っていただいたのです」(瀬尾社長)

▲駅直結という好立地に建つベッセルイン高田馬場駅前はオープン以来90%以上の稼働率を誇る

祖業は広島の建設業 海外ブランドのFCも

 ベッセルホテル開発は、広島県福山市に本拠地を構えるベッセルグループの中核企業。グループの祖業は建設業だが、創業は1924年と古く、昨年ちょうど100周年を迎えたという歴史ある会社だ。戦後間もない1947年に渋谷組として法人化されたあとも、建設業を軸に経営されていたが、1974年に福山駅前で本格的なシティーホテル「福山キャッスルホテル」をオープンし、ホテル業に進出した。1997年にベッセルに社名変更。翌年には米国のチョイスホテルインターナショナルとエリアFC契約を結び「スリープイン」事業を開始した。以来、ホテルチェーンの多店舗化を図っていたが、その後2010年にはFC契約解消。以後は「ベッセルホテル」に名称を変更した上で、さらに全国展開を進めてきた。現在は「ベッセルホテル」「ベッセルイン」「ベッセルホテルカンパーナ」「レフ」「レクー」の5ブランドで、北海道から沖縄まで全国で、前述の通り36施設5640室を運営している。
 また、ホテル経営と並行し、「ドトールコーヒー」、「星乃珈琲店」といったカフェ業態のFC経営、印刷、不動産賃貸、マンション管理、ビルメンテナンス、警備業なども展開。グループ全体での売上は約280億円だが、そのうち8割の230億円はベッセルホテル開発のもので、文字通りホテル事業が核の企業グループだ。社員数は正社員777人、パートアルバイト1718人、計2495人だ。

(2025年6月号掲載)
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