地主の挑戦:借地権を買い戻し、地域を活かす貸し方を展開

土地活用賃貸住宅

借地権を買い戻し、地域を活かす貸し方を展開

東京都豊島区東長崎で9代続く足立家。貸し宅地と賃貸住宅を所有する中、足立知則オーナーは2018年から「東長崎ぐらしプロジェクト」と題して、既存建物を生かした街づくりに取り組んでいる。

店舗として、建物を街に開く

東京の主要ターミナル駅の池袋から、西武鉄道池袋線で2駅の東長崎。北口駅前の商店街には昭和風情が漂う。長崎の地名は、鎌倉時代に北条氏に仕えた長崎氏の領地だったことに由来するという。

「この辺りはずっと農村地帯で、わが家も兄と私の代で9代目になりますが、もともと農家だったようです」と話す足立オーナー。

 父親は専業で自主管理していて、足立オーナーは幼稚園の頃から父親の地代の集金に連れて行かれていた。高校3年生のときに父親が他界し、母親を中心に賃貸経営を行うことになった。

「大学は建築学科で、卒業後に不動産デベロッパーに勤務したのも、何か家業の役に立つだろうという意識がありました。兄も私も会社員として働きながら、母の賃貸経営をサポートしています」(足立オーナー)

15年、借地人から売却の相談を受けていると母親から聞き、足立オーナーは借地権を買い戻し、建物を活用したいと思ったという。「底地を持っているだけでは、何もできません。東長崎は道路拡幅に伴う立ち退きや、後継者不足で空き店舗が目立ってきました。地元がにぎわうために何か始めたいと思っていたのです」

借地権を買い戻した土地は東長崎駅前にあり、築40年の店舗兼用住宅が立っていた。2階建てで、18年に1階の店舗が空いたのを機に、足立オーナーは地元を盛り上げるための活動をスタート。

相談相手となったのがHAGI STUDIO(ハギスタジオ:東京都文京区)の宮崎晃吉代表だ。宮崎氏は建築家で、東京都台東区谷中において、空き家のリノベーションや街づくりを手がけている。宮崎氏と東長崎ぐらしプロジェクトと題して取り組むことを決めて、不動産ポータルサイト「DIYP」で入居者を募集した。

東長崎駅から徒歩数分の場所にあるカフェ「MIA MIA」

その応募者の一組が、アリソンヴォーン・理恵夫妻。夫妻は東長崎との縁はなかったが、カフェを開くために物件探しをする中、足立オーナーの物件を見つけた。立地や建物に魅力を感じたという。

「面談を2度行い、東長崎を面白くしたいと考えている人に貸したいという希望を伝えると、理解を得られました」と足立オーナーは話す。カフェ「MIA MIA(マイアマイア)」は20年4月にオープン。対話が自然に生まれる場所として、平日でも多くの人でにぎわう人気店となっている。

入居者と街がつながる仕掛け

借地権を買い戻す機会は、20年末にもあった。既存建物は築40年の3階建て賃貸住宅。住戸9戸のうち5戸が空室で、1階の事務所と駐車スペースも空いていた。

「賃貸物件としての競争力と、街がにぎわう要素もつくりたいと思いました」(足立オーナー)

建物前に畑スペースとシェア本棚を設けた「壱番館」

住戸は暮らしを楽しむ人を入居者ターゲットにし、庭や畑、土間や縁側を部屋ごとに設けた。屋上には菜園スペースを設置し、共用部として入居者に開放。1階の建物前にも畑スペースやシェア本棚、ベンチを設けて、入居者と街の人がつながるきっかけとなる要素を取り入れた。建物名は「壱番館」と命名。

リノベした住居は、賃料を相場より上げて募集したが、約2カ月で満室に。1階の駐車スペースは店舗として改修し、グラフィックデザイン事務所と、設計事務所兼アートギャラリーが入り、働く人の姿が見える、街に開いた場所に生まれ変わった。購入やリノベの費用は、土地を担保に銀行から融資を受けた。

全室空室のアパートを購入

 23年2月、足立オーナーは壱番館の近くに立つ木造アパートを購入した。築40年強で、全4戸が空室だった。「前オーナーから売却の話を聞き、戸建て分譲住宅が建つだろうと思いました。しかし、東長崎に活気のある風景をつくるとしたら、建物をそのまま店舗などに活用したほうがいいと考えて、購入することにしました」(足立オーナー)

 部屋は1戸約20㎡の単身者向けで、3戸を住居として改装。昭和時代のタイルや格子戸など建具を残し、壁の一面に有孔ボードを貼り、入居者が棚をDIYで取り付けられるようにした。人通りの多い道路から目立つ1戸は、店舗併用住宅とした。

「弐番館」と建物名を変えて入居募集を始めると、店舗併用住宅にすぐ申し込みが入った。近所に住む編集者のいしかわりえ氏で、小さな本屋を開くために物件を探していたという。足立オーナーは「東長崎に新しいにぎわいの場ができてうれしいです」と話す。

足立オーナーは東長崎駅北口の再開発において、地権者約100人から成る準備組合で理事長を務める。駅の北口は幅4m未満の道路と古い木造住宅が多く、住民は災害時に不安を抱えていて、準備組合は区と連携し、道路の整備や建物の建て替えを検討している。

開店を祝う足立オーナー(左)と「こころの本屋」店主のいしかわ氏

「代々続く店から新しい店まで、店主の顔が見える店が多いのが東長崎らしさで、魅力です。再開発を通してその魅力を広げたい」と足立オーナーは話す。

(2024年3月号掲載)

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