土地を活かす:シェアモビリティーサービス

土地活用その他建物#投資#土地活用

会員数310万人のシェアモビリティーサービス
地域の交通インフラや不動産の付帯サービスに活用

最小だと間口2.5m、奥行き1.9mの空きスペースがあれば、有効に土地を活用することができ、周辺の不動産価値向上にもつながるというユニークなサービスがある。最近、街のあちこちで見かけるようになったシェアモビリティーサービスだ。大手の一社OpenStreet(オープンストリート)が展開するHELLO CYCLING(ハローサイクリング)は、会員数はすでに300万人を超え、サービス網は全国25都道府県に広がっている。

OpenStreet(東京都港区)
工藤智彰社長(44)

全国25都道府県で展開

 「HELLO CYCLING(ハローサイクリング)」は、電動アシスト自転車を中心としたシェアモビリティーサービスだ。

 街中のさまざまな場所に配置されたレンタルサイクルを時間単位で借りて自由に乗り降りすることができる。利用者はスマートフォン上からアプリで会員登録をして、最寄りのステーションを検索し予約を行う。自転車のロック解錠や料金決済もそのままスマホ上でできるため、自由に好きな時に好きな場所で借りられる(図1参照)。利用後も提携ステーションであればどこでも返却が可能だ。 

▲二次交通の拠点となる駅に設置した事例

 「ちょっとした買い物や用足しなど日常生活上での利用が多く、1回の利用は30分以内。移動距離が3〜5㎞の場合、料金は130円というケースが全体の4割を占めています。住宅地に住む人がいつもの生活圏から少し離れたロードサイドの商業施設などにちょっと足を延ばすのによく使われています。基本的には行きたいところに行くための利用で、行き先での乗り捨てが8割を占めます。そのため、ステーションは駅前やバス停周辺だけでなく、住宅地などにもあるのが特徴です」(工藤智彰社長)

 各ステーションには、黄色い案内看板と自転車ラック、納車台数を管理するビーコン(電波受発信器)が設置してある。自転車の配置台数は標準で3〜10台だが、最大では200台設置しているステーションもある。

 現在は北海道から沖縄まで25都道府県で、8000カ所以上にステーションを展開している。稼働中の自転車の台数は3万5000台を数える。

 ソフトバンクグループでシェアモビリティー事業を担う同社は、2016年から同サービスを開始。登録会員数は21年に100万人、23年に200万人を超え、24年3月には310万人を突破した。

 「会員数はここへきて一気に増えてきました。1日の利用者数は平均して5万〜6万人です。冬に気温が5度を下回ると利用は減りますが、夏は自転車をこいでもそれほど汗をかかないことからあまり減らないのです。年間のピークは秋ですね。このサービスも黎明期からいよいよ普及期に入ってきたと感じています」(工藤社長)

※OpenStreet提供資料を基に地主と家主で作成

地域企業、自治体と三位一体

▲レジデンスの共用部に設置した事例

 HELLO CYCLINGのビジネスモデルは、シェアモビリティーサービスのシステムを提供している同社と、地域での運営などに携わる民間のパートナー企業、さらに街づくりや地域の交通インフラ整備の課題解決に協力する自治体が、三位一体となり各地域で展開しているのが大きな特徴だ。現在、協定を結んだり連携する自治体数は122、パートナー企業数は75社に及ぶ。

 「当社と自治体さんとの間で、いわゆるシェアモビリティーの実証実験、あるいは普及に関する協定を結んでいます。具体的には街づくりや市民の移動における問題解決を目的に、ステーションとなる場所を提供いただいています。そしてステーションに設置するラックや自転車の設備提供と運営を、地域の民間企業さんがパートナーとしてやっていただく形です」(工藤社長)

 パートナー企業は交通、エネルギー、不動産、観光系の企業が多い(図2参照)。具体名を挙げると、江ノ島電鉄、南海電気鉄道、近畿日本鉄道、東急バスなどの交通系や、シナネン、TOKAI(トーカイ)、ENEOS(エネオス)などのエネルギー系、スカイツアーズといった観光会社系、さらにハウスメーカー系として旭化成不動産レジデンス、東建コーポレーション、地域の不動産会社として京都府のエリッツ、愛媛県の三福ホールディングスなどが参画している。

 企業の関わり方もさまざまだ。ステーションラックなどの設備と自転車本体の費用を自社で負担し、地域の事業主体会社として運営に携わるパターン。シナネンの子会社でモビリティー事業を営むシナネンモビリティーPULS(プラス)、ENEOS、南海電気鉄道、江ノ島電鉄がこれにあたる。ステーション設備の費用だけ負担するのが、旭化成不動産レジデンスや近畿日本鉄道。

 そのほか、自転車のバッテリー交換や修理・点検などメンテナンス業務のみ手がけるパターンや、自社で所有または管理している用地提供のみというパターンもあるという。これにはセブンイレブン、ファミリーマート、ローソンといったコンビニエンスストアやスーパーマーケットのライフコーポレーション、ドラッグストアのサンドラッグなどが参画している。

 「例えばエリッツさんの場合、自転車を自社で購入し、自社で管理している物件と当社が京都市から借りた駅前などの場所にステーションを設置して利便性を高めています。南海電気鉄道さん、東急バスさん、江ノ島電鉄さんも自転車を自社で購入しています」(工藤社長)

■図3:ステーションペースのレイアウトは3種類

一方向に垂直(90度)に並べて駐輪

一方向に斜め(45度)に並べて駐輪

一方向に斜め(15度)に並べて駐輪

※OpenStreet提供資料を基に地主と家主で作成

不動産価値が向上

 ステーションスペースは自転車を3台駐車できる、間口2・5m、奥行き1・9mの広さを最小の条件とする。斜め置きにすれば奥行き90㎝以下の場所でも設置可能だ(図3を参照)。そのため分譲や賃貸マンションの空きスペースを活かして設置したり、カーシェアリングスペースの一部を利用したりするケースもあるという。

 特に、マンション・アパートの空き駐車場スペースの活用は、入居者だけでなく周辺住民に手軽な移動手段を提供できるため、物件および周辺の不動産価値向上につながるものとして好評を得ているという。

▲シェアモビリティーの利用イメージ

 自転車1台から得られる月の売り上げは1万〜1万5000円程度。周辺にステーションが無い新規エリアで始める場合、月数千円の売り上げから始まるケースもあるが、地域住民の日常使用に加えて観光客の利用を見込めるエリアでは一気に売り上げが伸びることもあるという。

 「愛知県岡崎市が良い例ですが、人気のユーチューバーさんが紹介する聖地巡礼スポットがあるらしく、そこまでシェアサイクルで行く方が多い。加えて街中の『イオン』への買い物や、短大への通学などを組み合わせて、1台につき月2万〜3万円を売り上げています」(工藤社長)

 料金の決済はOpen Streetが行い、システム手数料以外の利用料をパートナー企業へ支払う。パートナー企業が自転車を購入して運営する場合、購入費は1台あたり15万円ほどになり、減価償却が初年度で終わる。

 「結局、場所の確保が大事なビジネスなので、地域の自治体さんや、地域に密着した企業と組んで展開しています。そうすることにより地域のインフラができて、その結果不動産価値も上がっていくと考えています」(工藤社長)

▲24年の1月よりサービスを開始した着座式の電動モビリティー

2030年までに全国20万台

 現在、国内で同社と同じようなシェアモビリティー事業を展開している会社は、大手ではほかに2社ある。いずれも特定小型原動機付き自転車(以下、特定小型原付)に指定される電動キックボードといった、提供するモビリティーに違いがあったり、対象エリアが異なっていたりする。

 「当社でも一部エリアで、電動アシスト自転車だけでなく、電動サイクルという特定小型原付の運用も始めました。イメージとしては、最終的に街でいろんなモビリティーに乗ることができるコミュニティーをつくっていこうと思っています。ただ、電動キックボードについては安全面と使い勝手から扱っていません」(工藤社長)

 シェアモビリティー事業はヨーロッパで早くから普及が進んでおり、世界で最も利用が多いフランス・パリでは年間4500万回、スペイン・バルセロナでは年間2000万回利用されているという。

 日本にシェアモビリティーのサービスが持ち込まれたのは、2010年ごろだが、本格的に広がったのはここ5年。一気に10倍規模に成長し、特に東京都心部においてシェアモビリティーは当たり前に目にするようになった。実際、東京は同社を含む大手3社の利用者で年間1000万回使われるまでになり、世界3位の利用数になっているという。

 同社は30年までの目標として、ステーション数を現在の8000カ所から3万カ所に、自転車台数を現在の3万5000台から20万台に、会員数を現在の300万人から1000万人に伸ばすとしている。

 「移動手段のツールとして、その程度までは十分需要があると思います。理想は、ある程度公共交通で生活するエリアにおいて、必ずHELLO CYCLINGの自転車があって移動手段として使われている状態です」(工藤社長)

(2024年7月号掲載)

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