【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:第2回 空き家を次世代の資産へ

賃貸経営リフォーム・リノベーション#地域活性#家主#空室対策#築古#リノベ

「古民家のリノベーション」から「まちの空き家を次世代の資産へ昇華させるリノベーションの社会的意義と効用」を考える

 相次ぐ自然災害や資材価格の高騰などの影響により、大きな変化が起こりつつある不動産業界。そうした中「不動産オーナー井戸端ミーティング」は貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指し、主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり勉強会を有志で開催している。
 今回は、戸建てや空き店舗のリノベーションなどを通して、地方都市のシャッター商店街を再生させるなど、地域の活性化を実現させた2人の人物の講座を取り上げる。まずは前編として、福岡県糸島市に関したディープな情報をインターネットで発信している「糸島コンシェルジュ」を務める野北智之氏の講座についてレポートする。

野北智之氏(福岡県糸島市)

[プロフィール] 1981年生まれ、福岡県糸島市出身。修猷館高校卒業。明治大学建築学大学院を卒業後、某ラグジュアリーブランドで仕事をする。十数年の東京生活を経て、妻とともに1年間の世界一周の旅を経験。帰国後は地元・糸島に戻り、ゲストハウス「前原宿(まえばるしゅく)ことのは」&写真撮影サービス「ことのはフォト」を運営。糸島市の情報をインターネットで発信する「糸島コンシェルジュ」としても活動している。

 

地方都市のシャッター商店街を再生

 私は15年間、東京で暮らしていましたが、夫婦で世界一周した後に地元の福岡県糸島市に戻ってきました。ところが、いざ戻ってきてみると地元の商店街が寂しくなってしまっていました。そこで、どうにか活性化できないかと思って取り組んだことを紹介します。
 同市は福岡市の隣、福岡空港からは電車や車で40分ほどの場所にあります。私が活性化に取り組んだ前原商店街は、JR筑肥線筑前前原駅から徒歩で約10分のところにある非常にコンパクトな商店街です。昔は唐津街道の宿場町だったことから、築100~200年超えの建物や昭和レトロな雰囲気の家などが残っています。昭和30年代は糸島の人は皆この商店街に買い物に来るような活気にあふれた商店街でしたが、2000年以降はシャッター商店街になっていました。私が戻ってきた当時は、「このまちで開業したいという人は一人もいない」と不動産屋から言われたほどです。ところが今では、毎年7、8店舗ずつ店が増えていく状況になっています。

 私は地元であるこのまちでゲストハウスを開こうと思っていたのですが、そのためには地域のつながりが非常に重要だと感じていました。自分だけが頑張ればいいという状況ではなかったので、いろいろなことに取り組んだのです。特に「地域を『楽しむ、つなぐ』イベントの開催」「半公共空間の活用」「歴史を調べる」「定期的な掃除」という四つのこと、そしてDIYによって地域の活性化が実現できたのだと思います。

半公共空間で地域をつなぐ

 まず、地域をつなぐ取り組みとして「カフェさんぽ」という、地域のカフェを巡るウオーキングツアーや、空き店舗を使った映画の上映会などを実施してみました。空き店舗のオーナーは、初めは人にテナント貸しすることに抵抗を感じている様子でしたが、1日限定であればと上映会のために貸してもらうことができました。その後、とても多くの人が来場した様子を見て、「テナント貸ししてもいいかな」という気持ちになったようです。いきなり「1~2年貸してください」と言われると抵抗があるオーナーでも、1日だけなら意外と貸してくれること、そしてその結果がよかったら続けてみたいという気持ちになるということがわかりました。
 次に、商店街にベンチを置いてみました。前原商店街は数百mほどの距離しかないため目当ての店に行ったら終わりで、ぶらぶら歩ける雰囲気ではありませんでした。道路にベンチを勝手に置くことはできませんから、店舗スペースと道路の間、半公共空間にベンチを置いたのです。

 もともと日本の伝統建築には「縁台」や「縁側」といった、私的空間と公共空間をつなぐ半公共空間を持つという特徴があります。そういう場所に人が集まることで、コミュニケーションが生まれたり、にぎやかさが演出されたりするのです。クラウドファンディングなどを駆使して店舗と道路の間にベンチを置いたところ、ほかの店もまねしてベンチを置き始め、商店街に人がとどまり、コミュニケーションが生まれるようになりました。

まちの活性化は掃除から

 ほかにもまちの歴史を調べて「前原を交流と創造のまちにする」といった将来像を描いて飲み歩きイベントを計画したり、ボランティアスタッフだけで運営するシェアスペースの手伝いをしたりと、いろいろやってきました。しかし、一番重要だったのは「定期的な清掃活動」だったのではないかと思います。まちの活性化とは何かというと、まちが好きな人を増やすことだと思っています。言い換えると、まちが好きな人を増やせばおのずと活性化するのではないでしょうか。
 かれこれ6年以上、まちの人たちと毎月1回の清掃活動を続けています。それによりまちがキレイになることはもちろんですが、掃除に集まる人同士でコミュニティーが生まれるという点も重要です。さらに、信頼関係も生まれますし、まちの人々からも好意的に受け止められ、イベントなど何かをやるときに協力的になってもらえるという効果もあります。極端にいえば、掃除だけやっていれば、あとはおのずと活性化していくのではないかと思えるほど、掃除は重要だと考えています。

戸建てを改装してゲストハウスをオープン

 私たちの前原商店街での活動を見た人が「君たちだったらここで何かできるんじゃないか」ということで、商店街から3㎞ほど離れたところにある、広大な庭付き、もとい古墳付きの一軒家を紹介してくれました。サッカー場より広い、8000㎡の一軒家です。私たちはそこを10年の契約で借りて、循環と学びがテーマのゲストハウス・レンタルスペース「まるゐと」をオープンさせました。DIYで麻炭漆喰壁のレンタルスペースをつくるところから始まり、敷地内の広大な森を生かして「DIY土木」にも取り組みました。学びの素材が敷地内にたくさんあることの恩恵をフルに活用しています。
 糸島市は前原市、志摩町、二丈町の3市町が合併してできた市ですが、前原商店街は旧前原市の中心市街地にあります。そして、まるゐとがあるのは、旧志摩町の中心市街地です。前原商店街でも、まるゐとでも、やっているのは同じで、半公共空間を生かして中心市街地を活性化させることなのです。戸建てや空き店舗などの私的空間と、公共空間をつなぐ「縁側・縁台」や「庭」といった半公共的な場を整え、改善していくことが、地域活性化のカギになるのではないかと思っています。

(2024年9月公開)
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