<<スポーツ選手のセカンドキャリアとしての不動産経営>>
華やかに見えるプロアスリートの世界。しかし、けがをしたり現役を退いたりした瞬間から収入が途絶えるというシビアな環境でもある。第二の人生を見越して不動産経営を選択した元プロ選手、そして現役選手の歩んできた道を紹介する。
野球
外国人受け入れと民泊運営 多彩な貸し方で利回りを上げる
大関秀太郎オーナー(栃木県宇都宮市)

栃木県宇都宮市の中心市街地にある「オリオン通り商店街」。栃木県最大の繁華街といわれるこの場所に、大関秀太郎オーナーは地上4階、地下1階建てのテナントビルを1棟所有している。2023年に購入した30坪の物件だが、購入時は全戸が空室。価格は5500万円で、利回りは3%だった。普通にテナント貸しをするなら手を出すことがない条件だったものの、全空ならば民泊に挑戦したいと考えた。オープンすれば、宇都宮で初の民泊物件となる状況だったからだ。
当初、すべての階を民泊物件とする想定で旅館事業の許可を得たが、1〜2階に居酒屋が入居したため、3〜4階のみを民泊としてリノベーションした。 オープンから2カ月。予想に反して全く反響がなかった。そこで、SNSを使って集客をすべく、特に「TikTok(ティックトック)」と「インスタグラム」のマーケティング手法を研究。ターゲット層の年齢や興味を絞り「プロモート機能」でターゲットに直接訴求したところ、じわじわと予約数が増えた。民泊の場合、宿泊客のレビューも大切になってくる。そのため、問い合わせにはほぼリアルタイムで回答していったところ人気の物件となった。
「SNSによる広告効果は絶大。外国人宿泊客の半数以上はSNS経由でうちの物件を知ったそうです」(大関オーナー)
1泊3万6000円で貸し出し、1カ月でワンフロア50万円前後の売り上げだ。テナント貸しのフロアは月10万円で貸し出していることを考えると、単純計算で5倍の賃料を得ている。民泊は2フロアで運営しているため、月の賃料は100万円にも上る。「そう考えると、物件販売時にいわれている利回りとは一体何なのだろうかと思いますね」と大関オーナーは話す。

▲民泊物件では掲載する写真も重要
積極的な外国人受け入れ 法人契約で安定収入に
民泊で外国人のニーズを取り込むと同時に、賃貸住宅でも外国人入居者を受け入れている。この方針が、大関オーナーが賃貸経営に成功しているもう一つの側面だろう。
宇都宮市内も人口減少の流れから労働力を外国人に頼っている。一方で、外国人の入居受け入れに抵抗感を示す家主はまだ多い。その状況で、外国人を受け入れることが賃貸経営における差別化になると考えた。そこで、22年に購入した栃木県壬生町の戸建て物件を外国人労働者向けシェアハウスとして貸し出した。さらに個人契約ではなく法人契約にしたところに勝機があった。法人契約で入居を受け入れれば、長期入居が見込める。帰国などで退去が発生しても、新規の労働者が次に入居するため空室を抱えることもない。法人契約は大きなメリットをもたらすのだ。
同じスキームで、23年に購入したもう1戸の戸建ても法人契約で外国人を受け入れた。入居者全員が同じ工場へ出勤することから、朝・晩運行する物件から工場までのバスの手配を行うパッケージとして契約し、月の収入を50万円にすることができた。
「どれだけ今までと違う新しい方向で考えられるかが、今後の賃貸経営において利回りを上げるための近道になると思います」。こう話す大関オーナーは、小さい頃から野球少年だった。作新学院在学中は甲子園でエースピッチャーを務め、中央大学に進学した。1学年上には牧秀悟選手、同学年には古賀悠斗選手といった日本代表として活躍する人たちがいる環境の中、自分の実力では到底、プロとして通用しないと痛感した。

▲野球の名門、作新学院のエースピッチャー
「プロ野球選手と同じくらいの年収を別の形で望むとすると、やはり投資をするしかない。大学は文学部に入学しましたが、別の学部の授業で経済やマーケティングについて学び始めました」(大関オーナー)
大学在学中の20年には父親の協力を得ながら株投資を始めた。資産の運用には株と不動産の二つの方法しかないと結論付け、22年に初めての物件を購入。現在はビル1棟、テラスハウスとアパートを2棟、戸建て2戸を所有している。また祖父母の自宅兼整骨院が立っていた土地を活用した「ユナイテッドガーデン」も所有。この物件は平屋のテナントが6戸並ぶ複合施設だ。 26歳ながら、すでに年間の賃料収入は1億円程度まで成長している。
貸し方を変えることで物件の利回りは上げられる
ユナイテッドガーデンは、賃貸経営を新しい方向で考えたことでテナントを獲得できた最初の物件でもあった。同物件はJR宇都宮駅から車で20分ほど、国道4号より少し奥まったところにある。もともとは祖父母宅と祖父が開業していた接骨院と銭湯だったが、祖父が亡くなった99年以降、接骨院と銭湯部分は廃虚となったままになっていた。
とはいえ、躯体に大きな損傷がなかったのは運が良かった。同市で店舗建築を手がけるアイシークリエーション一級建築士事務所(同)に依頼しながら、6000万円の融資を受けて改修を開始した。世界が新型コロナウイルスの感染拡大により落ち込む中だったが、だからこそ改修に乗り出すことができたと大関オーナーはいう。
「それまでは、テナントは街中やロードサイドにあるべきだという考えがありました。ですが、コロナ禍以降、在宅ワークなど従来の場所の定義に縛られなくても仕事ができるという考え方が広がりました。テナントも同じではないかと思ったのです」(大関オーナー)
- ▲Before:20年以上放置されていた整骨院
- ▲After:ユナイテッドガーデン敷地内には社があり、落ち着いた雰囲気
むしろ、少し奥まったところにある、木々が生い茂った静かな敷地内となる点が付加価値になると考えた。立地でなく、その物件だけが持つ特徴を押し出すことで、テナントも自社のブランディングに役立つはずだと考えた大関オーナーの元には同じような意識を持つ事業者が集まり、6テナントはすぐに満室に。21年にオープン以来、人気のフレンチレストランや美容室、1級建築士事務所などが入居している。賃料は15万~26万円前後で、利回りは20%超を確保ができた。固定概念から脱却することが成功への道という。
「今の日本で、ただ不動産をこれまでと同じように貸し出していても入居はなかなか付かず、家賃を大きく上げるのも難しい。それならば、物件に新しい価値を付けるしか利回りを上げる方法はないでしょう」(大関オーナー)
(2025年8月号掲載)
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