相続や事業承継対策を済ませてなお、事業成長に意欲

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<<一代で財を築く>>

「本業の支えとして始めたコイン洗車場で月300万円の利益」に続き、父から受け継いだ家業の部品製造業を維持しながら、安定収益としての不動産事業を大きく伸ばしてきた兵庫県西宮市の森下康博オーナーに話を聞く。

3人の子どもにそれぞれ1社ずつ
家族信託で次の次の代まで指定

 2021年11月、森下オーナーは将来的な相続を見据えて家族信託の組成と公正証書遺言の作成を行った。司法書士に依頼し、家族信託も公正証書で作成したという。きちんとした書面で準備をしようと思い立ったきっかけは、何げなく見ていた「ユーチューブ」。おすすめの動画として表示され、家族信託の方法が自分に適していると感じて、すぐさま司法書士に相談しに行ったのだという。

 最終的にかかった費用は400万円。そのうち約90%が登録免許税だ。

 高額ではあるが、その価値はあったと話す森下オーナー。「かゆいところにまで手が届く内容に仕上げることができました。公正証書を使って家族信託や遺言書を作成すれば、相続発生時にまずは妻に、その後私が指定した子どもにと次の次まで指名ができるので安心です。これは遺言書だけでは対応できないので、お金をかけて整えたかいがありました。相続対策をやり切って満足です」語る。

 森下オーナーは、かねてから法人を三つ所有していた。事業を三つに分けてそれぞれの会社に振り分けたのは、子どもが3人いるため相続がしやすいようにとの意図だった。作成した公正証書は全7通。会社は3人の子どもに1社ずつ承継させるため計3通、個人資産を子どもに渡すため、子ども1人につき1通で計3通、公正証書遺言が1通の内訳となっている。なお、ここ5年ほどかけて、個人所有の不動産を法人に移しており、今、不動産はすべていずれかの法人の所有になっている。

公正証書遺言と公正証書による家族信託6通

 一つ目の法人である昭和園(大阪市)はビル1棟と駐車場1カ所25台、マンションを経営する会社。こちらは最終的に長女が引き継ぐこととした。二つ目のオーバーランド(西宮市)はマンション1棟とビル2棟、こちらは長男に。三つ目の森下電機は、電鉄用部品の製造工場と駐車場3カ所・105台を経営しており、こちらは次男が承継する予定となっている。

大型病院やホールなどの近くに物件取得
まちづくりに資する仕掛けに意欲

 相続発生だけでなく、これから先に起こり得るまさかの事態への備えも万全だ。それは認知症対策である。「認知症だけでなく、もし私が判断能力を失うような事態になった場合、本来であれば株主総会が開けず経営に悪影響が出ます。しかし、そんなときは司法書士が株主総会を開くことができるよう定めてあるので、新たな経営者を選任ことができる仕組みです」(森下オーナー)

 森下オーナーは銀行に出向いた際、経営の報告がてら担当者にこの公正証書を見せた。「よく練られていて申し分ない」と太鼓判を押してくれたという。

 家族信託を組成し、相続の準備を終えたとはいえ、まだまだ森下オーナーは事業を成長させていく意向だ。現に、24年には新築マンションを建築。森下オーナーは「子どもに引き継ぐ前に条件に合う物件は増やしていきたい」と話す。

24年竣工の新築マンション、ココメープル

 不動産を増やす際の戦略は、大型病院、ホール、スタジアム、役所、この四つの施設に近い場所に物件を取得するというものだ。「これらの施設には必ず人が集まります。しかも来た人はお金を使うために来ている。そうすると、その周囲にはおこぼれがあるものです。例えば、コンサートに車で来た人は周囲の駐車場にお金を落とすのです。立地としてここを押さえておけば間違いありません」(森下オーナー)

 「兵庫県立芸術文化センター」近くの所有駐車場「ボブベアーパーキング」には、240万円を投じてオブジェを設置した。「文化ホールに芸術を楽しみに来た人が利用することを考えて、駐車場にも遊び心があるといいなと設置しました」(森下オーナー)

 事業による安定収益化、相続対策も済ませた森下オーナーは、今後は地域のまちづくりにも貢献したいと考えている。

ボブベアーパーキングのオブジェ

(2025年8月号掲載)
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