永井ゆかりの刮目相待:1月号

賃貸経営トレンド

連載第76回 新しい時代の幕開け

コロナ禍からの完全脱却

 「来年はどんな年になるのか」という会話を交わす時期になった。2023年は社会全体が新型コロナウイルス禍から脱却しつつある。訪日外国人客の数も10月はコロナ禍前を超えたというニュースが流れるまでに回復した。そんな年の次に来る年だからこそ、多くの人は明るい変化を求めているように感じる。

 本誌も今号は第1特集で、「2024年の賃貸住宅市場」について掲載している。詳細は特集を読んでいただきたいが、傾向は大きく分けて二つある。一つはコロナ禍によって新たに生まれた志向、そしてもう一つは、コロナ禍前の状況への回復だ。

 コロナ禍によって新たに生まれた志向としては、オンラインによる部屋探しの加速化がある。コロナ下では、外出自粛、非対面が余儀なくされたが、それにより、オンライン内見やIT重要事項説明が進んだ。特に注目したいのは、インターネットで得られる物件1件あたりの情報量だろう。画像の点数が多いことはもちろん、360度パノラマ画像、VR(仮想現実)動画、さらにSNSを使った動画配信などの増加が目立った。その結果、内見数が減少の一途をたどっている。家主としては内見してもらうための対策が重要になってくるだろう。

 一方、コロナ禍前の状況へ回復していることについては、いわずもがな、人の動きが戻ったことが大きい。法人の転勤需要も、留学生や外国人労働者の数も、23年は徐々に戻ってきており、24年は一気に増えると予想される。そうなると、賃貸住宅市場の活性化も期待できるのではないか。

省エネ性能表示の義務化

 さて、24年で大きく変わることといえば、建築物の省エネ性能表示制度が4月から始まることだろう。この内容についても、本誌の「TOPICS」という企画に掲載しているので詳細はそちらで読んでいただきたいが、この制度スタートは賃貸住宅市場を大きく変えると思う。

 24年4月以降に建築確認申請を行う場合は、努力義務として省エネルギー性能基準を満たす建物について「省エネ性能ラベル」を、入居者募集時に提示しなければならない。その省エネ性能ラベルには、エネルギー消費性能と断熱性能のそれぞれのランク、さらに年間の目安光熱費も表示される。25年4月には完全義務化となり、建築確認申請するものすべてを対象に省エネ性能基準をクリアしないと建築できなくなるのだ。

 中古住宅についての省エネ性能表示の義務化は未定で、既存の賃貸住宅についてすぐに何か対応を求められるわけではない。だが、この制度スタートによって、これまでよりも入居者の新築志向は高まるのではないか。

 そうした中で中古住宅も対応を考える必要がある。例えば、省エネ性能を高めるために窓のリフォームを試みるだけでも違うかもしれない。新築同様の省エネ性能表示は難しいかもしれないが、25年4月までに入居者に協力してもらって光熱費を参考値として出すことはできるのではないか。

 いずれにしても、これからの賃貸住宅市場では省エネが大きなカギを握る。24年は、大きな変化の前の準備の年といえるだろう。

 

Profile:永井ゆかり

東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「家主と地主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2024年1月号掲載)

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