永井ゆかりの刮目相待:2号掲載:かけ算で考える

賃貸経営トレンド

組み合わせで価値づくり

 2024年が始まった。「今年こそは」と、前年にできなかった自身や事業の目標達成を、祈願した人も多いのではないだろうか。

私もその一人なのだが、大事なのはどのような方法でその目標を達成させるかを考えることだ。常にそんな悩みを持っている私は、先日、知り合って20年近くたつColors Japan(カラーズジャパン:東京都中央区)の藤田精社長から非常に興味深い話を聞いた。

 同社の主たる事業は、リフォーム会社や建築会社、不動産会社向けの住宅設備の会員制共同購入の運営だが、最近藤田社長が注力しているのは、M&A(合併&買収)だ。これまで約40社のM&Aを行ってきたという。会社の業種はさまざまで、経営経験を生かして事業を再生している。

 そのM&Aをした会社の一つにケーキ店がある。大阪市の繁華街にあるケーキ店の顧客ターゲットは、周辺にあるバーの女性スタッフやそのバーの顧客。営業時間も夕方に開店して深夜まで。ケーキ店の周りには競合となる店も数店舗ある。

 そこで、藤田社長は単価を上げつつ、顧客ターゲットが喜ぶケーキの販売を考え付いた。そのアイデアが、ガラスケースに並べた際に目を引くケーキだ。例えば、ガラスの靴に入ったケーキ。シンデレラのガラスの靴をイメージさせるそのケーキは同店の人気商品で、ケーキ単体で販売するよりも単価アップに成功している。

 

顧客を見極める

さらに驚くのは1万円するプリンを販売していること。初めて聞いたときはその金額に耳を疑った。数はそれほど多くはないが、コンスタントに売れているようだ。理由は、高級クリスタルメーカーのグラスに入ったプリンだからだという。

誰がそんなに高いプリンを買うのかというと、男性客が多いのだとか。行きつけのバーでスタッフの女性にプレゼントしたら、ウケがいいのは容易に想像できる。

「大切なのは掛け合わせ。単価を上げるためにどのようなものを組み合わせると新しい価値が生まれるのかを考えることなのです」 

こう話す藤田社長は、以前、賃貸住宅のリノベーションや管理をする会社を経営していた。当時も、ほかにはない斬新なリノベで家賃をかなり高くして貸すことができていた。ポイントは、どんな人が顧客になるのかをきちんと見極めていることだろう。差別化する際に陥りがちなミスが、「ほかにはない」商品に固執することだ。だが、それだけではうまくいかない。

いろいろなところにアンテナを張って、今何がトレンドで、どんな志向を持った人が増加しているのかをキャッチすることが重要だ。そして忘れてはいけないのは、どの顧客に対してアプローチするのかということ。どこにいるのかまで探らないと、結局契約に至らない。

そういう意味で、藤田社長のケーキ店の話は、場所、顧客を考慮した差別化商品として、うまくいっている理由がよくわかる。異業種に学ぶべき点は多い。24年は広い視野で情報を収集し、目標を達成していきたい。

 


Profile:永井ゆかり

東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2024年2月号掲載)

次の記事↓
永井ゆかりの刮目相待:3号:工事発注、苦難の時代

一覧に戻る