永井ゆかりの刮目相待:3号:工事発注、苦難の時代

賃貸経営トレンド

人手が足りない

 わが国では、現在人手不足が叫ばれている。帝国データバンク(東京都港区)の調査によると、2023年10月の正社員の不足率は50%を超える。11年前のほぼ倍となっているのだ。
特に建設業界は、物流業界と並んで「2024年問題」が騒がれている。2024年問題とは、19年4月に施行された働き方改革関連法で、建設業界において設けられていた猶予措置が、24年3月末に期限を迎える問題のこと。その期限を過ぎると、時間外労働の上限を超え、違法な労働をさせている企業には、懲役刑や罰金刑が科せられる。だが、対応がなされていない建設事業者が多いのが現状だという。
 人手が不足しているうえに、1人あたりの労働時間が減ることにより、工期はこれまでよりも長くなり、建築コストも上がる。コストが上がるだけでなく、近い将来そもそも工事を頼めない日が来るかもしれない。
 原状回復についても、23年ごろから入居日に間に合わないという話を耳にするようになった。「申し込んだ部屋の原状回復が、まだされていなくて引っ越し日までに終わるかが心配」。1月に賃貸住宅を契約した知人が不安げに話していた。すでに引っ越し事業者は手配済み、今住んでいる部屋の退去日も確定しているとのこと。
新規の入居者が部屋の契約をしたものの、入居可能日が決まらないというケースも出てきているのだ。

 

変わる管理会社選び

 そうなると、きちんと職人や工事事業者とつながっていることが重要だ。管理を委託するのであれば、管理会社がリフォームに注力しているかどうかが一つの目安になる。社内に工事部がある管理会社や建築会社がグループ会社にある場合であればわかりやすい。そうでない場合は、リフォームや大規模修繕の提案力がある会社は、工事事業者のネットワークを持つ可能性が高いといえるのではないか。
 いずれにしても家主は、管理の委託先が工事に強い会社かどうかをチェックする必要があるだろう。オーナーが管理会社を選ぶ際に最重視することとして「リーシング力」がよく挙げられるが、今後は変わるかもしれない。退去が発生したらスムーズに原状回復をして、次の入居者がなるべく早く入れるような体制をつくること、つまり、「工事能力」が必要になっていくのではないか。
そうすると、スケールメリットを生かせる管理会社や規模の大きい家主でないと、スムーズな原状回復は難しくなるだろう。一方、自主管理で経営している家主はどうしたらいいのだろうか。先日、家主向けセミナーでこの職人不足の話をしたら、DIYのスキルが必要になるだろう、という声が上がった。確かに、いざというときには自身である程度の原状回復ができる施工スキルがあったほうが有利だろう。
今のうちにさまざまな準備をして、リスクを回避することを考えておきたい。

 

Profile:永井ゆかり

東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2024年3月号掲載)

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