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- 【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:特別座談会(2)
「場のデザイン」から「共感不動産」を考える
【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:特別座談会(1)に続き、第二弾カレッジ「場のデザインから共感不動産を考える」を総括して、九州産業大学准教授・信濃康博氏 、スペースRデザイン・本田悠人氏、𠮷原勝己オーナーの3者で実施した座談会をレポートする。
***リノベーションと経済性***
𠮷原:賃貸契約における新たな流れとしては、「SOHO契約」や「住まいと仕事の両方に使いたい」というニーズに応じた契約方式が増えていることも注目すべき点です。フリーランスや兼業、副業が増えてきた現代では、住まいがただの居住空間ではなく、仕事の場としても利用されることが増えており、そうした使われ方に対応できる物件が求められています。山王マンションのようなリノベーション物件が、まさにそのニーズに適しているというのは大きな発見ですね。
働き方の多様化に伴い、オフィスの入居率が低下し、フリーランスの人々が自宅やカフェ、コワーキングスペースで働くことが当たり前になってきました。そうした中で、機能性よりも快適さやモチベーションを重視するようになったのは、非常に大きな変化です。インターネットのインフラが整い、どこでも仕事ができる環境が整っている今、オフィスがなくても十分働けるという現状があります。
信濃:現代の消費傾向は、かつての大量生産・大量消費の時代から大きく変わり、自分自身の個性や好みに合わせて「アレンジ」することが重要視される時代になってきました。住まいや職場においても、機能性や高級感だけではなく、「その空間で自分がどう感じ、どう生きるか」という自己表現の場としての価値が求められているというのは非常に納得できる点です。
特に、住居が自己表現の手段となるという点は、リノベや間取りの可変性が重要になる背景でもあります。空間を自分で改変したり、好きなようにカスタマイズしたりできることで、より自分らしさを感じられる場が提供されていることが、今のニーズに応えているのだと思います。
職場に関しても、同じことが言えるでしょう。ありきたりなオフィス空間では働く意欲が湧かない人が増えており、カフェやリラックスできる場所で働くほうが、むしろモチベーションが高まるというケースが増えています。従来の「効率的な仕事空間」という考え方から、「自分のペースで、心地よく働ける空間」へと変化している現状があるようです。
このような背景を受けて、リノベによる個々のライフスタイルや働き方に合わせた柔軟な空間設計がますます重要になっていくと思います。
本田:住居として提供する場合と、事務所として提供する場合で全く同じ空間でも賃料に大きな差が出るというのは、特に福岡のような地域では、立地によって市場性が大きく変わるという事実を改めて感じさせます。これは物件の利用目的やターゲット層が大きく影響を及ぼすポイントであり、現場でのニーズの拾い上げと、それに基づいたデザインの調整がどれほど重要かがよくわかります。
特に「自分らしい空間」を求める人々に共感を与える場を作ることは、デザインの観点からも非常に挑戦的な課題です。従来のような大量生産の住居ではなく、よりパーソナライズされた空間を提供することが求められている今、それに応じた値付けの調整も含め、バランスを取ることが難しい部分でもあります。
例えば、性能を大きく向上させることが難しい築古の物件において、デザインや空間の柔軟性、雰囲気を活かして単なる「住居」ではなく「事務所」や「両方兼ねた空間」として提供することで、ニーズに応じた市場性を見出すことができる点は、非常に有益な知見だと思います。実際に事務所として提供した途端に賃料が大きく跳ね上がるという事例は、まさにその立地や利用目的が賃料に直結する実例です。
住居用の7万円だった物件が、スケルトン状態にして事務所として提供するだけで20万円に跳ね上がった事例もあります。これは単にデザインや内装だけの問題ではなく、その場所でどういう使われ方をするか、ターゲット層がどのように物件を活用するかによって、付加価値が大きく変わることを示しています。
このような背景を踏まえたとき、築古物件の持つポテンシャルを引き出すためには、従来の「住居としての提供」にとらわれず、事務所や他の用途への柔軟な切り替えがカギになります。その過程で、築古物件ならではの雰囲気や特性を活かし、ターゲット層に対して魅力的な空間を作り上げることができれば、大きな成果を上げられるのではないでしょうか。
𠮷原:リノベにおいては「どの用途に向けて内装を作るか」というのが非常に大きな要素ですね。単に機能や性能を大幅に向上させるだけでは、賃料に直接大きく反映されることが少なくなってきている現状もあり、むしろ「どのようなコンセプトで、誰をターゲットにするか」という点が重要になってきています。
新築物件と比較すると、確かに築古物件が性能面で劣る部分は多いですが、新築では表現しづらい独自の魅力や価値を、リノベを通して引き出すことができるという強みがあります。
現代の消費者が求めているのは、機能や性能以上に「自分らしく過ごせる空間」や「ライフスタイルに合った空間」なので、リノベを通じてその価値を提供できるかどうかがカギになります。1000円や2000円といった小さな賃料の上乗せが可能になるのも、そのターゲットに合わせた空間設計が成功しているからこそですよね。
本田:共感を重視したリノベーションでは、同じ500万円の予算でも、その使い方や優先順位が全く異なってきます。従来であれば、予算内でいかに上質な素材や機能を詰め込むかに焦点が当たっていたかもしれません。しかし今は「共感」を軸に、ターゲットがどう感じるか、どう利用するかを重視したデザインや構造が求められる時代です。機能性やスペックを追求するだけでは、必ずしも賃料や価値に直結しなくなってきています。
例えば、住居としてリノベを行う場合には、通常はお風呂やキッチン、洗面台などの設備に予算が使われがちですが、事務所専用であればこれらの設備を削減することで大幅にコストを抑えつつ魅力的な空間を提供できます。結果として、より低コストでリノベが可能になるうえに、事務所専用として高い賃料を得ることができるという、非常に効率的な活用方法が生まれます。
共感というキーワードを軸にすると選択肢が大きく広がるという点も、まさに現代のリノベの特徴を捉えています。500万円という予算があった場合、一室に使うか、一棟で使うか、その視点が変わるだけでリノベの方向性や効果が全く異なります。
一室にかける費用が500万円でも、3000万円でも賃料が大きく変わらない場合、建物全体に対して共感を生み出す投資を考えることが重要になりますよね。例えば、屋上を解放して気持ちの良いスペースを作れば、部屋そのものに手を加えなくても入居者に「この建物に住みたい」と感じさせる価値を付加することができるかもしれないのです。
共感を基にしたアプローチでは、数字や物理的なスペックだけでは測れない価値が生まれる点が非常に面白いポイントです。例えば、共感を得た入居者が満足し、次の更新時に賃料を上げても納得してくれる可能性が高いというのは、従来の「性能重視」のリノベーションとは異なる新しい価値観ですね。
信濃:デザイン初期の段階では、派手で目を引くデザインが中心になりがちで、それも一種の「共感」を生むものでしたが、アフォーダンスの考え方とは少し異なるものです。
アフォーダンスというのは、人がその場に自然に引き寄せられ、その空間が「使ってほしい」と促すような要素が含まれていることを意味します。例えば、畳の上に座りたくなる、サイザルのカーペットを踏んでみたくなる、日当たりの良さを感じて朝日を浴びたくなるといった感覚的な要素が、人々に自然な行動を促すのがアフォーダンスの本質だと思います。
空間そのものが「ここに座って」「触れてみて」と自然に語りかけてくるようなデザインは、見た目の派手さではなく、どれだけ居心地の良さや「使いたくなる」感覚を生み出せるかが重要です。
時代とともに空間デザインのトレンドが派手なものから「自然に共感できる場所」へとシフトしていると感じます。それは、見た目のインパクトではなく、どうその空間が人々に「心地良さ」を感じさせ、自然な行動を引き出すかがより重視されるようになってきたのではないかと思います。
現場での感覚と学術的な視点の両方から見ると、アフォーダンスが持つ「自然な使い心地」や「人を引き寄せる力」は昔から変わらないものの、それをどうデザインに反映するか、どう居心地の良さを作り出すかというアプローチが、より成熟してきたのではないでしょうか。
本田:アフォーダンスの考え方を場のデザインに取り入れるとき、確かに「居場所」という概念が大切になりますよね。実際に空間をデザインする際、居住者がどこでどのように過ごすのか、どういった生活シーンを想定するのかという「居場所」を考えることで、自然にアフォーダンス的なデザインが取り込まれている点は非常に興味深いです。
間取りやデザインを見た入居者が、その場でどう過ごし、どのような行動を取るかを自然と引き出せる空間作りは、共感を生む重要な要素です。実際、過去の調査からも、特定の間取りや空間に特有の使われ方が見えてきたというのは、非常に面白い発見です。
また建物全体のデザインにおいても、エントランスやアプローチといった外観の要素も非常に重要だと思います。例えば、ウッドテラスがあるだけで建物全体の雰囲気や価値が大きく向上するというのは、デザインの力がいかに大きいかを物語っています。特に築古物件などでは、派手な改修よりもその場の空気感や雰囲気を大切にし自然な形で引き立てることが、建物の価値を保ちつつ共感を生むデザインになるのではないでしょうか。
物件を案内する際にも、入居希望者に「この建物に帰りたくなる」という感覚を抱かせることができれば、非常に大きな付加価値になります。例えば、夜のライトアップやアプローチに植えられた植物が自然と雰囲気を作り出し、その情景を案内の際にイメージできるように伝えることで入居希望者の共感を引き出せるかもしれません。
𠮷原:最近はハウスメーカーの新築物件でも、リノベ物件のアフォーダンスを参考にしてデザインに取り入れている気がします。その際、緑やプライバシーの調整など、デザインや設計で新築特有の「安心感」や「快適さ」を提供しようとしているのが分かります。しかし誰もが共感できる反面、どこか画一的で、あまり個別の空間体験を提供できていない部分があるかもしれません。例えば、植物が見える風景や大きな窓といったデザインは、確かに魅力的ですが、実際にその空間に「立ち寄りたくなる」や「時間を過ごしたい」と思わせるほどの引力は感じにくいという課題があります。これは、プライバシーを重視しすぎた結果、逆に空間の自由度やアフォーダンスが制約されてしまうことにもつながっているのではないかと思います。
対照的に、古い建物、特に山王マンションのような既存の建物は「ありのままの状態」で既に多くのアフォーダンスを持っています。冷泉荘のようにエレベーターのない物件で階段が自然にコミュニティーの場になるといった事例や、プライバシーが限定されることで逆に「丸見えの空間」が入居者同士のつながりを促すというのは、まさに古い建物特有の優位性ではないでしょうか。
これは、設計当時の時代背景も大きな影響を与えているのではないかと思います。古い建物の設計者たちは、より人々の関係性が密接だった時代のマインドで設計しているため、自然とアフォーダンス性が高い空間が生まれているのかもしれません。屋上にシャワー室が設置されている例や、コミュニティースペースとして使える階段など、当時の生活スタイルを反映したデザインが、今でも独自の魅力を持っているのはその証拠と言えます。古い建物のアフォーダンスをうまく活用して現代風にアップデートすることで、新たな価値が生まれる可能性は非常に大きいと思います。
(2025年1月公開)
次回公開の記事(3)へ続く
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