永井ゆかりの刮目相待 

賃貸経営リフォーム・リノベーション

連載第80回 画竜点睛

リノベ現場での違和感

 リノベーションの取材に行くと、時々「あれ?」と思うことがある。とても格好よく、きれいに内装が変わっているのに、コンセントカバーや幅木、窓ガラスがそのままの状態であるケース。発見すると、「もったいないな」と思ってしまう。

 ほんの一部分ではあるけれど、費用を抑えるために手を加えない箇所を残すと、室内のデザインの統一ができずバランスを崩す。収益性を確保しようと考えるオーナーの気持ちはわかるのだが、違和感を抱くわけだ。

 こうした場面に出合うと、「画竜点睛を欠く」という言葉が脳裏に浮かぶ。中国の古典にある「肝心な仕上げができていない」という意味で使用される言葉だが、全体がすてきにリノベされている物件であればあるほど、ほんの一部分が目立ってしまうのだ。

 無論、すべてを新しく変えることが本来のリノベではないだろう。本誌のリノベの事例記事においても、元からあった建具を一部残して改装、家賃を上げてすぐに入居者が決まった事例は少なくない。ただ、ポイントは「元々あった建具の一部を生かして改修」したことにある。

 前述のコンセントカバーや幅木、窓ガラスは全く生かされていないどころか、マイナス要素になっている。この違いはかなり大きな違いになるのだが、それに気付かない人たち、いや、気にしない人たちがいる。せっかくそれなりの金額をかけてリノベしたのに、もったいない。

表面的なまねの限界

 なぜ、気にしないのか。「リノベ」という言葉の魔法にかかっているからではないか。リノベすれば、きれいになって入居者が決まるだろうという思い込みによって、細部までは気にならないのだろう。こうした考えで取り組んでいる人は、リノベという本来の意味を理解していないと推察できる。

 リノベという言葉が使われ始めた当初、「リフォームとリノベは何が違うのか」という説明をしばしばしてきた。リフォームは古くなったものを新しいものに変えること、リノベは空間を変えて新しい価値を生み出すことだ。改修という点でいえば、同じだと思われるかもしれないが、そもそもの意味が異なる。

 いずれにしても、他者の成功事例は、参考にしてまねをしようと考えるもの。その試み自体は素晴らしいことだと思うが、その「まね」をする際に、成功事例の本質を理解できていないと、いざ採り入れようとしても、うまくカスタマイズすることができない。

 逆のパターンで、他者が成果を出している取り組みを見て「自分には無理」とはなから諦めている人がいる。だが、そのできない理由も表面的なことにとらわれているケースが多い。全く同じのことをする必要はない。なぜ、その取り組みが支持されるのか、その本質をつかみ、要素を採用することが重要ではないか。
 何事も本質をきちんと理解していなければ、画竜点睛を欠く結果になりかねないだろう。

Profile:永井ゆかり

東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「家主と地主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

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