【連載】資産価値を維持する〝省エネ〟賃貸住宅:7月号掲載

賃貸経営住宅設備・建材#環境配慮#入居者満足度#付加価値#断熱

 2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅の省エネルギー性能の向上が話題になっている。これからの賃貸住宅市場においても省エネ性能向上が注目されつつある。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役が省エネの重要性をわかりやすく解説する。

窓の断熱改修工事にチャンス到来

 4月から、「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」が始まりました。

 新築の賃貸住宅や分譲住宅には、省エネ性能や断熱性能(断熱等級)の表示努力義務が課され、これらの表示は、不動産ポータルサイトでも行われます。これにより、既存賃貸住宅も省エネ・断熱の性能面で競争にさらされることになります。

集合住宅は、窓と玄関の断熱性能向上で効果大

図1:住宅の省エネ性能ラベル

(出所)国土交通省

 古い賃貸住宅は、冬は寒く夏は暑い、そのうえ結露がひどいという印象があります。今後は、さらに断熱性能による差別化が明確になり、築古の物件は賃貸住宅マーケットで競争力を失う可能性があります。

 戸建て住宅は、6面が外気にさらされています。そのため、窓、玄関など開口部の断熱性能だけでなく、床、壁、天井などの断熱性能がとても重要です。

 それに比べ、集合住宅の場合、上下左右に住戸があり、戸建て住宅に比べると、床面積に対する外皮面積の割合が相対的には小さくなります。窓と玄関の断熱性能を向上させるだけで、ある程度の性能向上効果が期待できます。それにより、冷暖房費の低減と冬の結露発生も抑制、そして冬暖かく夏涼しい快適な暮らしを実現できるのです。

窓リノベ事業の実施24年は玄関ドアも補助対象

 23年度、高い補助率と大きな予算額で注目された窓の断熱改修に対する補助制度「先進的窓リノベ事業」が24年度も実施されています。この制度は、高断熱の窓に改修する工事に対して、定額の補助金が交付されるものです。費用に対する補助率ではなく、窓の断熱性能や工事方法、窓サイズによる定額補助で、実質的な補助率はとても高いのです。

 入居中の賃貸住宅で、床、壁、天井などの本格的な断熱改修は簡単ではありません。しかし窓と玄関扉だけであれば、居住中であっても比較的容易に工事を行うことができます。
 補助対象となる窓の高断熱化の工事の種類は、図2に示したようにいくつかあります。賃貸中であっても、内窓設置が短時間の工事で済み、費用対効果も高いのでおすすめです。

賃貸集合住宅において活用しやすい制度

 この制度を担当する環境省地球温暖化対策事業室の加藤啓司係長によると、「23年度の集合住宅での実施割合は、分譲住宅が約75%で、賃貸住宅は約25%にとどまっています。24年度は、より賃貸住宅での積極的な制度利用を期待したいです」ということでした。
 23年度の予算総額は、合計1000億円で、戸建て住宅は900億円、集合住宅は100億円と、戸建て住宅と集合住宅で予算枠が分けられていました。そして、最終的な予算の消化率は、戸建て住宅が約90%、集合住宅が約98%にとどまりました。
 23年度は、制度開始直後に申請が殺到したのですが、急激な需要増に対して供給が追いつきませんでした。そのため、工務店やリフォーム会社は予算の早期消化を予想し施主に負担をかけるリスクを恐れ、途中から本補助金活用を前提としたリフォーム工事の受注を控えました。それが最終的には予算が消化されないという結果になったようです。
 24年度は、国も大手サッシメーカーに供給体制強化を依頼しており、メーカー各社も体制を整えているとのことです。
 また24年度は、総予算が1350億円と大幅に増額され、戸建て住宅と集合住宅の区分がなくなりました。そのため、より集合住宅での利用がしやすく、さらに玄関扉の断熱改修も補助対象になりました。ぜひ、窓だけではなく、玄関扉もセットで改修してください。

図2:補助対象となる窓改修の工事の種類

(出所)YKK APホームページより ※Uw:熱貫流率(U値)の中で窓のU値を表示

賃貸住宅の競争率向上にBELSの取得も

 3月31日以前に建築確認申請を行った既存の賃貸住宅には、省エネ性能表示の努力義務は課されていません。しかし、表示を行うことは可能です。せっかく断熱改修工事を行うのであれば、併せて建築物省エネルギー性能表示制度(BELS:ベルス)を取得して、省エネ性能や断熱性能をアピールすべきです。
 既存住宅のBELSの評価取得には計算方法がいくつかあります。コストや計算結果に差が出るため、リフォーム会社か省エネ計算業務の委託先などに相談してみてください。
 窓と玄関の改修だけでは、もちろん劇的な高断熱住宅というレベルにまではいきません。しかし、同じ築年数の賃貸住宅に比べれば、かなり高性能になります。それによって賃貸住宅マーケットでの競争力は間違いなく向上します。なによりも、冷暖房の光熱費が下がるうえに結露が生じにくくなり、冬に暖かい快適な住み心地は、退去率や空室リスクの低減につながります。
 ぜひ、この機会にこの制度を活用して、賃貸住宅経営の競争力向上と安定を図ることをおすすめします。

図3:BELSの表示

(出所)環境省

住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。

(2024年7月号掲載)

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