【連載】資産価値を維持する 〝省エネ〟 賃貸住宅:6月号掲載

賃貸経営住宅設備・建材

第16回 パッシブデザインを併せて考える

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅の省エネルギー性能の向上が話題になっている。これからの賃貸住宅市場においても省エネ性能向上が注目されつつある。

高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の代表取締役の高橋彰氏が省エネの重要性をわかりやすく解説する。

 住宅の省エネ性能の向上を図る際、「アクティブデザイン」と「パッシブデザイン」という二つのアプローチがあります。 日本の住宅はほかの先進国と比べ、とても遅れてますが、その理由の一つにパッシブデザインへの配慮の不足があります。高気密化、高断熱化しても、パッシブデザインへの配慮がないと、逆に不快な環境になってしまう可能性もあります。ところが、わが国の設計者の多くは、この視点が欠けている傾向が強いため、施主は設計者選びの際に注意が必要です。

省エネ住宅を実現する二種類のデザイン

 アクティブデザインとは、直訳すると「能動的・積極的なデザイン」で、最新技術や設備機器を用いて省エネ性能を高めることを指します。具体的には、太陽光発電、エコキュート・エネファームなどの設備機器の導入をいいます。

 日本人は不思議と「設備」による省エネが大好きなので、アクティブデザインは導入が比較的進んでいます。もちろんこのデザインは省エネに有効なアプローチですが、設備機器は15年程度で更新期を迎えてしまうという点と、住み心地には必ずしも直結しないという点がデメリットです。

 一方のパッシブデザインは、直訳すると、「受け身・受動的なデザイン」のことで、主に自然エネルギーによって省エネを実現する方法を指します。具体的には、高断熱化、高気密化、通風の確保、日射遮蔽しゃへい・日射取得などを意味します。

 高断熱化、高気密化は浸透しつつあり、通風の確保は、窓を開けて快適に過ごすことのできる期間が極めて限られるため、パッシブデザインとは、日射遮蔽・日射取得のことだと理解して差し支えないでしょう。

図1:夏と冬の太陽高度の違い

▲(出所)住まいるサポート

南側の庇が左右する夏と冬の冷暖房負荷

 パッシブデザインを考えるうえで、最も重要なのは南側の庇ひさしです。図1に示したように夏と冬では太陽高度がかなり異なります。そこで南面は、適切な長さの庇を張り出させることで、夏は日射を室内に入れずに冷房負荷を減らし、太陽高度が下がる冬は、日射を積極的に取り入れて、暖房負荷を削減することが可能になります。

 最近は、庇をあまり張り出させない家が流行していますが、パッシブデザインの観点からは、適切ではない設計なのです。

 一方、東西面は通年、太陽高度が低いため、庇では日差しを遮ることがあまりできません。そのため、窓は極力小さくするのが基本になります。特に西側は、西日で冷房負荷が大きくなるため、なるべく小さな窓にすることをおすすめします。

 窓ガラスの選択も重要です。YKKAP(東京都千代田区)やLIXIL(リクシル:東京都品川区)などのメーカーでは、同じサイズで遮熱タイプ(日射遮蔽型)と断熱タイプ(日射取得型)を選べるようになっています。

 東西および北面は、日射遮蔽型のガラスを選択することが基本です。南面においては夏は庇で日射を遮り、冬は積極的に日射を取得したいので、日射取得型のガラスを選びます。

 ただし、このような観点でガラスを選択している設計者は多くありません。計画時に、設計者にガラスの選び方について確認することが必要です。

図2:日射遮蔽型と日射取得型

▲(出所)YKK AP

西面の窓に取り入れたいアウターシェード

写真1:アウターシェード

▲(出所)YKK AP

 西面は、庇では日射遮蔽できないため、日射を室内に極力入れない工夫がカギとなります。カーテンなどにより室内側で日射遮蔽するのに比べて、家の外側にアウターシェードを設置し、日射を遮ることが有効です。

 室内側で日射遮蔽しても熱自体は室内に入ってしまうため、日射熱の削減率は50%程度です。それに対し、外側で日射を遮ると85%程度も減らせるのです。

 賃貸住宅で西側の窓にアウターシェードを採用している事例はあまり見られませんが、実は、かなりコストパフォーマンスのいい差別化戦略なのです。アウターシェードは後付けが可能ですから、「西日で暑い」と賃借人からクレームを受けた家主は、後付けを検討してもいいかもしれません。

 高断熱住宅の場合、夏に家の中に入ってきた太陽の熱が、断熱性能によって外に逃げず、室温が上昇し過ぎてしまう「オーバーヒート現象」が起こることがあります。

 しかし、パッシブデザインに配慮すれば、オーバーヒートは回避できます。高断熱賃貸住宅を計画する際、設計者にパッシブデザインへの配慮を確認することをおすすめします。

 

(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。

(2024年6月号掲載)

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