【連載】”省エネ”賃貸住宅資産価値を維持する

賃貸経営住宅設備・建材

第11回 低断熱の家の不快さは放射熱にあり

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅の省エネルギー性能の向上が話題になっている。これからの賃貸住宅市場においても省エネ性能向上が注目されつつある。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の代表取締役の高橋彰氏が省エネの重要性をわかりやすく解説する。

断熱性能の低い家は 壁や窓が冷たい

 今回は、断熱性能が低い家の不快さについて説明します。不快である最大の理由は「放射熱(輻射熱)」にあります。そもそも、熱の伝わり方には伝導、対流、放射(輻射)の3種類があります。

 伝導は、直接触れることで熱が伝わる現象です。代表例が湯たんぽやカイロです。温度が異なる物体同士が接触することで、熱が高いほうから低いほうへ移動することをいいます。

 対流は、液体や気体の流れに乗った熱の伝わり方です。代表例のエアコンは、暖かい風や冷たい風を空気中に送り、空気が動くため温度を感じることができます。

 そして放射は、物体から発せられた熱が電磁波として届く現象で、もっとも身近な例が太陽です。太陽の熱は電磁波として地球に届き、地表に当たることで、私たちはその熱を感じます。暖房器具ではストーブやこたつ、電気ヒーターなどが放射を利用しています。また、放射により、寒さを感じることを「冷放射」といいます。

 人間は36度前後の体温を保つためにエネルギーを燃やしています。

 人間の周囲の窓や壁の温度が体温よりも低いと、自分が発している放射熱が冷たい窓や壁にどんどん吸収されてしまうため、寒さを感じるのです。

室内での温度は放射熱で伝わる

 建物内での熱移動の大部分は、放射熱が占めています。図1のように、建物内の熱移動は、伝導熱が5%、対流熱が20%であるのに対して、放射熱は75%を占めるといわれています。つまり、放射熱次第で、室内環境は快適にもなるし、不快にもなるのです。

 放射熱の影響が大きいため、人の体感温度は温度計で測る室温ではなく、室温と壁面温度の平均値になるといわれています。図2は、低断熱の家と高断熱の家の、冬の体感温度の違いを示したものです。

 例えば、低断熱の家で壁の内側が10度まで冷えている場合、暖房で室温を30度にしたとしても、体感温度はこの平均で20度ということになります。

 一方、高断熱の家では、室温22度、壁の温度が20度と想定すると、体感温度はこの平均で21度になります。温度計で測ると、低断熱の家のほうが8度も室温が高いのに、高断熱の家がむしろ暖かく感じる現象が起こるのです。

 夏はこの逆です。夏は外気だけでなく日射を受けて、壁や天井が熱くなり、放射熱の影響も受けます。そのため、低断熱の家は必要以上に冷房の設定温度を下げないと、涼しくなりません。放射熱で暖められながらエアコンで冷やされるという不快な状況になるのです。

高断熱の家は少しの冷暖房の風で快適

 このように、高断熱の家は、夏も冬も必要以上に冷やしすぎたり、暖めすぎたりしなくても、穏やかな温度設定で快適に過ごすことができます。

 さらに、「エアコンの風が苦手」という人は多いと思います。これも断熱性能が低い家では、夏にエアコンから極端に低い温度の風が強く流れるため、体に冷風があたり不快に感じるのでしょう。

 これが高断熱の家では、エアコンから適度な温度の風が穏やかに流れるので、風が体に当たらなくなります。それが高断熱の家が快適な理由の一つです。

 ちなみに、東日本大震災で電力需給が逼迫ひっぱくした際に、国は冷房の設定温度を28度にするように国民にお願いしましたが、これもある意味おかしな話です。同じ28度でも高断熱の空間では快適に過ごすことができますが、低断熱の空間では28度の温度設定では耐えきれないほど暑いはずです。

快適な居住空間は退去リスクを低減する

 当たり前のことですが、住まいが快適であれば、人はそこに住み続けたいと思います。逆に、夏暑く、冬寒いという不快な空間であれば引っ越したいと思うはずです。空室リスクが今後どんどん高まる中で、快適な居住空間を提供するのは、賃貸住宅の経営戦略上、重要なことだと思います。

 ぜひ、これから賃貸住宅を新築するのであれば、十分な断熱性能を確保することをおすすめします。

住まいるサポート
(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で100社以上の工務店などと提携し家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを行っている。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトのサポートも手がける。経営の傍ら、東京大学大学院の修士課程で高断熱木造建築について研究中。

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