【連載】資産価値を維持する”省エネ” 賃貸住宅:8月号掲載

賃貸経営住宅設備・建材

第18回 既存賃貸住宅もフルリノベの検討を

 2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅の省エネルギー性能の向上が話題になっている。これからの賃貸住宅市場においても省エネ性能向上が注目されつつある。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役が省エネの重要性をわかりやすく解説する。

日本エコハウス大賞 グランプリに断熱リノベ

After                           Before

第7回日本エコハウス大賞を受賞したtede
建築主:若竹寮
企画:アッドスパイス
設計:村上康史建築設計事務所
施工:椎口工務店
(出所)「建築知識ビルダーズ」No.56

 

 賃貸住宅も断熱性能で選ばれる時代に突入しつつあります。これまで、断熱フルリノベーションは、主に戸建て住宅に限られていましたが、最近は賃貸アパートでの事例が増えつつあります。

 象徴的な出来事がありました。建築系雑誌の出版社であるエクスナレッジ社(東京都港区)の出版する「建築知識ビルダーズ」が事務局を務める「日本エコハウス大賞」で、築63年の木造アパートの断熱フルリノベのプロジェクトが2023年(第7回)の大賞を受賞しました。同賞は、これまで主に新築の高気密・高断熱の戸建て住宅の受賞がほとんどでした。アパートの断熱フルリノベの受賞は、この流れの変化を示す事例だと思います。

 受賞した「tede(テデ)」は、京都市にある昭和の古い木造アパートをモダンな建物に再生したもの。耐震改修と断熱改修を施し、さらにクリエーター向けの共用ラウンジを設け、シェアアパートとして生まれ変わらせたのです。

 予算の都合上、耐震性能向上を優先させ、断熱性能はUA値(外皮平均熱貫流率)0・64と、断熱等級5に少し満たないレベルです。本格的な高断熱賃貸住宅と呼ぶには、少し不十分な性能かもしれません。しかし、築63年の木造アパートであることを考えると、賃貸住宅マーケットにおいて十分な競争力を回復したと思います。

住みながらの断熱改修 フルリノベも可能に

 一般的にリフォームの優先順位は、①窓および玄関②床(床下に人が入りそこからの施工が前提)③天井④外壁となります。

 壁の断熱改修は、従来は外壁を剥がして行うスケルトンリフォームが前提であり、大掛かりな工事になるため、住みながらの施工は困難でした。

 ところが近年、外側から断熱材を張ることで、住みながらの断熱改修が可能な工法が複数登場しています。例えばLIXIL(リクシル:東京都品川区)が提供する「まるごと断熱リフォーム」3種類のうち、スケルトンリフォーム以外の外壁重ね張り、外壁張り替え(図1)のいずれかの工法であれば、居住中でも完了します。

床・天井断熱施工は 居住者の負担が軽微

 壁の断熱改修を行う場合、断熱性能の弱点である窓・玄関、天井、床の断熱も同時に行わなければ意味がありません。壁をスケルトンリフォームするのに比べれば、居住者の負担ははるかに軽微で、賃借人が住みながらでも施工は可能です。

 床断熱は、床下に人が入ることができる空間があれば、床下から、自己接着力のある発泡ウレタンフォームを吹き付けます。これにより、断熱性能を上げるだけでなく床の隙間も埋めることができるため、床下からの隙間風を防ぐことができます。

 天井については、小屋裏空間にグラスウールを吹き込むことにより断熱性を高めます。軽い断熱材を用いるため、既存の天井への負荷が小さいこともメリットです。

既存住宅の断熱リフォーム 補助金の活用が可能

 国は、新築住宅の省エネ性能向上から既存住宅の断熱性能向上の推進に、政策の軸足をシフトしています。

 7月号で紹介した環境省の「先進的窓リノベ2024事業」だけでなく、床、壁、天井の断熱改修や高効率給湯器への変更に対しても補助制度を活用できます。

 特に、国土交通省、経済産業省、環境省の3省が連携して、「住宅省エネ2024キャンペーン」を行っており、専用ホームページが開設されています。

 環境省の先進的窓リノベ2024事業は、国交省の「子育てエコホーム支援事業」、経産省の「給湯省エネ2024事業」「賃貸集合給湯省エネ2024事業」と同時に活用することができます。同一箇所に二つの補助金を使うことはできませんが、窓の断熱リノベと同時に、外壁、屋根・天井、床の断熱改修やバリアフリー改修、高効率給湯器の導入などの補助金を活用することが可能です。

地方自治体独自の制度 補助制度の併用が要チェック

 断熱リフォームに対しては、地方自治体が独自に補助金や助成金制度を設けている場合も少なくありません。特に東京都は、24年度は「賃貸住宅における省エネ化・再エネ導入促進事業」という賃貸住宅への補助を進めてます。この制度は、国の補助制度と併用することも可能になるようなので、東京都に賃貸住宅を所有する人には、断熱リノベを行う大チャンスです。

 ぜひ、これらの制度を積極的に活用して、賃貸住宅の市場価値の向上に取り組んでみてください。

住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。

(2024年8月号掲載)

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