入居者との思い出:入院による家賃滞納

賃貸経営入居者との関係づくり

入院による家賃滞納を気にかけ完済への道筋を立てる

 杉中宗彦オーナー(大阪市)が所有する「ムアナ88」は、築34年のRC造のデザイナーズマンションだ。室内は38〜71㎡で、竣工当初はファミリー層が多かったが、近年は大阪市内で働く単身の入居者も多い。その一人に、2010年に入居した当時57歳の男性、A氏がいた。

杉中宗彦オーナー(58)大阪市

[プロフィール]
すぎなか・むねひこ

1965年、大阪市生まれ。メーカーに勤務する兼業大家。20代から祖母と共に、テラスハウスや駐車場を自主管理。90年、父親が「ムアナ88」を竣工。2012年に同物件の管理に参画し、21年に相続した。

▲物件は、大阪メトロ谷町線出戸駅から徒歩4分。大阪きっての繁華街、梅田や難波へのアクセスも良い

 A氏は駐車場などで顔を合わせるといつもあいさつし、何かあればすぐに連絡をくれるまめな性格だった。17年ごろから体調を崩し、入退院を繰り返すようになったが、その際にも「1カ月入院します」などと、近況を小まめにメールで報告してくれたという。

 A氏は入院で仕事を休みがちになり収入が減少。18年には7カ月分の家賃約60万円の滞納となってしまった。そこで杉中オーナーは、メールのやりとりや話し合いを重ね、返済計画書を作成してもらうことにした。

「計画書のとおりに返済が進まなかったため、実行できるスケジュールで計画書を再度作ってもらいました。その後の滞納はなく、滞納金は2年かけて返済されました」と杉中オーナーは語る。

 A氏は元々恰幅かっぷくのいい人だったが、だんだん痩せ細って体力が落ち、22年には天井照明の電球交換が自分ではできないほどだった。杉中オーナーは電球の交換をはじめ、長期入院の不在中に郵便物を預かるなど、生活のサポートを行っていた。A氏はその行為に感謝し、お礼の品を持ってきたという。

 その後、23年5月に駐車場であいさつを交わしたのがA氏を見た最後となった。23年7月にA氏の息子から「父の体調が非常に悪い」と連絡を受けた後、9月中旬に亡くなった。

 「Aさんは亡くなる直前まで小まめに連絡をくれ、入院中も自分で家賃を振り込んでいました。入居当時は家賃債務保証会社との契約が必須でなかったため未締結のままでしたが、Aさんならきっと返済すると確信があったので、待つことができました。本当に真面目できちょうめんな人でした」(杉中オーナー)

(2024年1月号掲載)

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