【連載】次世代不動産オーナー井戸端セミナーレポート

賃貸経営不動産投資

 新型コロナウイルスの感染拡大をはじめ、相次ぐ自然災害や資材価格の高騰などの影響により賃貸住宅業界は大きく変化しつつある。そうした中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する吉原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、連続セミナーを開催。賃貸住宅の貸し手と借り手、そしてその地域にとって「三方よし」となる持続的不動産経営を目指す。今回は第5講のレクチャラーである脇黒丸一磨氏の講演内容をレポートする。

第5講 Design Space(鹿児島県伊佐市)脇黒丸 一磨氏[事業計画のデザイン入門]
次世代不動産経営のための、事業計画のデザインを学ぶ貸し手・借り手・エリアにとって三方よしをポイントに

20年後も事業を続けていられるための事業計画

 今回は、次世代不動産経営のための事業計画に関する内容です。これまでの第1講から第4講までの内容を集約した「事業計画のデザイン」になります。

 まず、私自身について説明します。Design Space(デザインスペース:鹿児島県伊佐市)の代表を務めています。父の会社を一度は引き継ぎましたが、今から10年前に独立したので、2代目でもあり創業者でもあります。現在は、「次世代に残す企業」をコンセプトとして橋梁きょうりょうの設計とM&A(合併・買収)を中心に、不動産事業や貿易の仲介、保育園・介護施設の運営など幅広く手がけています。

事業計画の必要性を再認識

 不動産を持っていたり不動産を経営していたりする、地主や家主は立派な事業主です。

 私が不動産に関わり始めたのは約10年前からです。当時は深く考えずに不動産を買い、賃貸していましたが、それでうまく回っていました。しかし、最近は不動産投資家といった新規参入者が増え、小規模事業者にとっては厳しい事業環境です。そうした中、所有物件をどう事業化し、いかにほかの物件と差別化を図るのか、または物件自体に事業性を持たせるのかと考えることが、これからの賃貸不動産経営には必要だと思います。

 一番大切なのは「事業は1、2年で終わるわけではない」という感覚を持つことです。10年、20年と続けていくためには、賃貸事業や賃貸物件が自分にとって必要なものであり、わくわくできるものでなければなりません。さらに、いかに多くの人を楽しませる物件をつくるかということに特化してこそ事業が成り立つと思っています。

 そのためには、事業計画の作成が必要です。本来、事業計画は事業の全体像やスケジュール、また事業のスピード感を把握するために作成します。まず何がしたいのか、その事業に対して共感が持てるのかということなどを考えながら書き出し、組み立てていきます。

事前準備は「心構え」

 事業計画を作成するためには事前準備が必要です。私は、「どういうマインド(心構え)で事業を考えていくか」という部分に力を入れています。

 例えば、自分に何ができるのか。それを把握できていなければ、事業をうまく進められないと思っています。そうでないと、事業を始めようとしたときに本当に立ち行かなくなります。私が今まで失敗してきた事業は他人任せだったり、あまり気乗りしない事業を立ち上げたりと、きちんと計画を立てていないものばかりでした。

 また、仲間の存在は重要です。お互いできないことを助けて、協力し合える仲間を必ず見つけておいてください。

 一歩を踏み出す勇気が持てるかどうかもポイントです。この「一歩足を出す」ということが、意外と多くの人ができないのです。まずはペンを持ち、事業計画を書くところから進めてみてほしいと思います。

アイデアを点から面へ広げる

 では、事業の計画について考えてみましょう。いろいろなアイデアや人材を考え、それらを線でつなぎ、エリアという面にしていく作業になります。

 私は現在、ドローン(小型無人機)事業や仮想空間でサービスを提供するメタバース(仮想空間)事業、中国輸出事業、ひとり親支援事業などを進めています。最初は「こういうアイデアがある」「こういう事業がある」「そのためにはどうしたらいいのか」という点が散らばっている状態です。思い付いた新しい事業の骨組みをつくっていくためには、何が足りなくて、どんな人が必要なのかについて考えます。

 さらに、そこに何を掛け合わせるかが重要です。新しいことや異業種のものを掛け合わせることで、思い付いた事業が新しいもののように見えてくるのです。既存の事業を既存のやり方で行っても先行者に負けてしまいます。不動産事業といえども、コンセプトや利用方法などを変えるなどして新しく見せないと物件そのものの資産価値やそこに集まってくる人々が限られてきますし、ほかの物件に勝てません。だからこそ、異業種とコラボレーションしてみるのです。 その際、すべてのことに「なぜ、それをするのか」「なぜ、その人(会社)なのか」「なぜ、そのエリアなのか」と、必ず問いただす習慣をつけてください。それにより後で、良かったところと駄目だったところを確認することができます。

事業に関する答え合わせ

 これまでの4回の講義でビジョンを事業計画に落とし込むという作業をしてきました。今回はそれを文章化し積み上げていきます。その事業計画を経済・社会状況と照らし合わせることで、自身の事業やビジョンが今の時代に合っているのか答え合わせをすることができます。

 私が使用するのは内閣府が毎年公表する「年次経済財政報告」、通称「経済財政白書」です。内容はすごく難しいのですが、自身の進めようとしている事業の問題点や会社が倒産する理由として多いのはどんなことかなどが見えてきます。それらを解決したり防止したりするためのスキルや状況をつくり出すことができているかが答え合わせになります。

 また、TKC(栃木県宇都宮市)の「TKC経営指標(BAST:ベースト)」も参考にしています。さまざまな会社の自己資本の金額や1人の従業員の売上額などのほか、業界での平均的な利益率などを知ることができます。この収益率を自身の事業と比較することで答え合わせができるのです。

 さらに、各府省が公表する統計データを検索・閲覧できる政府統計ポータルサイト「政府統計の総合窓口(e─Stat:イースタット)」では、経済産業省発表の統計データを見ることができます。ここでは、売り上げの有無や倒産企業数などの各種数字を参考にしつつ、何がその業界で問題となっているのかを見て、どうすれば自分が同じ失敗をしないで済むのかを確認してほしいのです。

事業を可視化し対策を考える

 例えば、私は訪問看護の事業も手がけていますが、この業界は労働力不足です。訪問介護は利用者を介護することによって売り上げが上がっていくシステムなので、介護する職員がいなければ必然的に売り上げが落ちていきます。では、労働力不足を解消するためには何が必要なのでしょうか。

 私が出した答えは給料や待遇面に力を入れて、そこを特化することです。訪問介護の介護者は60~70代の高齢者が多いですが、私の会社の社員の平均年齢は30代です。平均年齢が若いと動きが俊敏なだけでなく、求人募集においても同世代の人を集めやすいという強みとなりました。このように、業界データの数字を見て問題となっていることを理解し、解決策を考えるという作業をしています。資料で見た数字を実際に事業チェックシートに落とし込んでいくことで、頭でなんとなく理解していたことを可視化することができるのです。それを表したものが図2です。

先を見据えた事業展開

▲ハンドメード作家らとマルシェを開催

▲シェアオフィスに併設した保育園は地域の人も利用可能

 私は今、四つの物件を事業化しています。写真1はそのうちの一つの空き倉庫を活用した事業です。ハンドメード作家らと知り合ったことがきっかけでスタートしました。当初、倉庫の2階のシェアオフィスを無料で貸していましたが、利用者に事業展開の話をして倉庫内の空き店舗に入居してもらった結果、今では、整体・ネイル・まつげエクステンション・ストレッチ・ヨガの店を運営する人やeスポーツ選手が入居しています。

 この1階には保育園もつくりました。以前勤めていた会社で、子育てや出産を理由に退職する人がいました。私の本業は橋梁設計ですが、技術職は1回離れてしまうと戻ってくることが難しい業界です。そこで、ずっと働いてもらうためにつくったのが企業主導型の保育園でした。利用者も職員も地域の人たちを対象に広く募集して、人材を確保できる事業となっています。

 事業開発、事業計画の先にある「もの」を常に考えるためには共感とストーリーが大切です。不動産運営にも、やはり独りよがりではなく誰もが共感できて広く伝わるストーリーが必要なのです。まずは、多くの人からの共感を呼ぶことができ、皆が楽しくなるストーリーを持つ「共感物件」を目指して骨組みをつくりましょう。

問題解決型不動産経営を実践

▲農業未経験の若者も参加しやすい仕組みづくりが鍵

 近年、私の事業活動は地域的な社会問題を解決しながら進めていくというソーシャルビジネスとなっています。実際の例を挙げて説明しましょう。

 鹿児島県伊佐市はお米のまちですが、高齢化に伴い休耕田が増えています。そこで私は、60%の収穫量でもよしとする米作りの事業を始めました。しかも、その人材として集めたのはeスポーツプレーヤーの若い人たちです。未経験者が第1次産業に入れない問題の一つに、耕運機などの必要な機材を用意するために初期投資が3000万~4000万円もかかるということがあります。そのため、農業をやめた人から借りた耕運機を若者たちが使って米作りをするというシステムをつくりました。また、田んぼや水の管理のほか、肥料をまくタイミングや防虫の方法などもタブレットで管理できる「スマート農業」を実践。これにより、農業をやったことのない人も「できるかもしれない」と思えるのです。

 普段からVR(仮想現実)やメタバースに親しんでいる若者に、機材を与えて米作りをしてほしいと伝えると、進んで田んぼをデータ化し、仮想空間での販売も始めました。こうした取り組みが、伊佐市を知らない全国の人たちの目に留まるという状況も生まれています。そこから、第1次産業を知らない若者にそうした状況を実際に見てもらってその面白さを伝えつつ、移住の誘致や空き家活用を提案することができています。

次へとつながる事業を考える

 第2講でビジョンについて学びましたが、そのビジョンを面白く展開していくことができれば、地域にとっても一つの財産になります。そうした事業を起こすことによって、面白いスキルを持った人が集まるのです。集まった人々と何ができるのかを考え、1部屋だけでも今までとは違う使い方をすると、そのコミュニティーに関われるきっかけになると思います。

 もう一度、問います。「その事業はわくわくしますか?」。わくわくするのであれば、どうしますか?「Do‼(動く)」です。今より一歩、先に進みましょう。

1974年、鹿児島市生まれ。Design Space代表取締役として橋梁の設計を中心に手がけるほか、現在、M&A、不動産賃貸、保育園の運営や訪問看護事業、農業など、4社で10事業を展開している。

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