【連載】円滑に承継を進めるための相続対策6月号

相続相続税対策#相続#遺言#相続税#家族信託

不動産オーナー必見! 遺言が解決する家族信託の限界

 先祖から受け継いだ不動産と家業を次世代に承継させていきたいという地主・家主にとって、親や自身の認知症発症は大きなリスクだ。本連載では認知症などによる承継リスクに備えた対策について解説。不動産オーナーの「円満家族」 と「永続経営」の実現へ向け、家族信託をはじめとした事前にできる対策を紹介する。

 不動産を所有しているオーナーにとって、資産や家族の未来を守るためには、遺言書の作成が非常に重要です。一方で、「家族信託を利用すれば遺言は不要」と誤解している人も少なくありません。今回は、家族信託だけでは解決できない・カバーしきれない、遺言独自の機能と、それがなぜ不動産オーナーにとって重要なのかをわかりやすく解説します。

カバーできない財産を指定

本人名義の預貯金

例えば、家族信託では、生前に子ども(受託者)に信託した財産への対策はできますが、亡くなった人名義の預貯金口座への対策はできません。家族信託を利用する場合でも、生活費や自由に使える資金として自身の口座に一定額を残すことを希望する人は少なくありません。

これは当然の希望ですが、何も対策をしていないと、後でトラブルになることがあります。遺言で相続人を明確に指定することで、家族間の争いを防ぎます。

畑や田んぼの承継

畑や田んぼといった農地の家族信託には農業委員会の許可が必要であるため、原則としてできません。そのため、畑や田んぼの承継先の指定も家族信託ではできません。

相続人の間で合意できれば相続手続きを進められますが、相続争いのきっかけになる危険もあります。地主・家主の場合には遺言で後継者を指定することで円滑な承継手続きができ、家族間の平和を保つことにつながります。

相続人間のトラブル回避

代償金の指定

財産の中で不動産の割合が大きい場合は、相続人全員に平等に分けることが困難です。不動産を相続人の共有にすることもできるだけ避けたいという希望もあるでしょう。

ここで役立つのが「代償金」という手法です。不動産を継ぐ人が、ほかの相続人に対して金銭を支払い、相続財産のバランスを取る方法です。遺言でこの仕組みを指定することで、後のトラブルを避けられます。代償金の指定は家族信託ではできません。

債務の承継先の指定

融資を受けた不動産に関しては、遺言で債務の承継者を明確にすることが重要です。承継先の定めがない場合には、すべての相続人が銀行との交渉に関わることになり、手続きが増えるだけでなく、家族間の負担も大きくなります。また、相続税の債務控除にも悪影響が出ます。債務の承継先の指定は、家族信託ではできない機能です。

過去に遺言を作成していても、状況が変わると遺言の書き換えが必要になってくるケースもあります。例えば、遺言を書いた後に、新規に借り入れをした場合、「債務の承継指定」を入れて遺言の追加作成をしなければなりません。もし、漏れてしまうと、相続人全員から実印と印鑑証明書をもらい、債務者の指定についての遺産分割協議書を別途作成し、金融機関に提出することになるのです。後継者にこのような調整をさせることは避けたいものです。

▲家族信託にはない遺言の機能

予期せぬ事態に備える

生命保険の予備的遺言

遺言で承継するはずだった後継者が先に亡くなった場合に、第2順位の承継先を定める機能を予備的遺言と呼びます。家族信託でも金銭や不動産など一定の財産については予備的遺言を定めることができます。しかし、生命保険の予備的な指定は、遺言でないと定めることができません。

遺言により生命保険の予備的な指定をすると、後継者のほかに、もし後継者が先に亡くなった場合に備えて、次に保険金を受け取るべき人を指定することができます。これにより、万が一の事態にも対応可能となり、オーナーの意思がしっかりと受け継がれます。

ただ、保険会社によっては、遺言による指定に対応できない会社もあるようなので、事前の確認が必要です。

まとめ

遺言書と家族信託は、賃貸不動産オーナーが賃貸事業と家族の未来を守るために非常に重要な手段です。今回解説した遺言書による独自の機能は、家族信託だけではカバーできない領域に対処するためには、必要不可欠になります。遺言書によってのみ実現可能なこれらの機能を活用することで、オーナーは自身の資産と大切な家族を守ることができます。今回の内容を、読者の皆さまの承継計画にぜひ役立ててください。

司法書士法人ソレイユ
(東京都中央区)
司法書士 友田純平 氏

不動産オーナー、会社経営者の認知症・相続対策に向き合い、法人での累計資産額は100億円以上。依頼主は50筆超の土地を所有する地主をはじめ多岐にわたる。「経営をストップさせない」視点からの家族信託提案を行う。

司法書士法人ソレイユホームページ内動画
友田先生が本記事の内容をわかりやすく解説しています
https://votre-soleil.com/blog/jinushi/6516/

(2024年6月号掲載)

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