笑いの絶えない、恵みに満ちた地域のよりどころ 相続や高齢化社会の課題解決の糸口にもなる

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田名 夢子オーナー(東京都世田谷区)

 

かつて、画家・廣本季輿丸の自宅兼アトリエだった建物と敷地内に立つアパートを地域住民に開放している「笑恵館」。相続した田名夢子オーナー(東京都世田谷区)が広い家に1人となった10年前、自分自身や土地の行く末を考え、自宅とアパートを地域に開くことを決めた。

▲各スペースには画家の絵が飾られており、記念館として役割も担う

 

人の出入りが不安を解消

▲笑恵館全景

 

「もう使わなくなった座椅子を『ご自由にお持ちください』コーナーに寄付しにきました」「たい焼きを食べつつ、ちょっとここで休ませてもらいます」。平日の午後にもかかわらず、ひっきりなしに人が訪れる笑恵館。同建物は、小田急電鉄小田急線祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩5分の閑静な住宅街の110坪超の緑豊かな敷地内にある。

 自宅だった建物は、2014年にシェアキッチン、飲食のできるカフェスペース、二つのレンタルサロンへとリノベーションされた。入会金500円を払えば誰でも会員となって利用が可能だ。会員は、世田谷区在住者がメイン。だが、中には四国や東北、さらにはアメリカ在住の会員までいるという。

 

▲お茶を飲みながらお喋りする企画が、盆踊り好きの参加者によって東京音頭を踊る会に

 

 レンタル費はスペースごとに異なるが、1時間2000円前後で、気軽に利用できる価格に設定している。キッチンでこだわりのプリンが作られている間、レンタルサロンでは、子供向け英語教室からウクレレのサークルまで、まさに多世代が活動を行っている。

 6戸の木造アパートは、5戸を賃貸物件、1戸をシェアオフィスとして貸し出している。シェアオフィスは、カイロプラクティックの施術サロンとして使われているほか、会員が上京する際には、素泊まりができる。

 子どもたちも自立し、広い敷地にたった1人になった田名オーナーは、もし自分が倒れても、誰も気が付かないかもしれないと考えた。それならば、建物を開放し、利用してくれる人々と緩やかにつながる「家族」となればいいのではないか。これが笑恵館誕生のきっかけだった。

 

▲0歳から101歳まで参加可能と盛り上がった水遊び

 

「自宅を改装して、地域に開放し始めた当初は『見知らぬ人が入ってくるなんて怖くないのか』と聞かれることもありました」と田名夢子オーナーは振り返る。だが、1人よりむしろ人の出入りが多くあり、毎日誰かと顔を合わせることが安心・安全につながるのだ。

 敷地を地域に開くため、入り口にある庭木の枝も落とした。うっそうとした庭は、ともすれば暗くて怖い印象を与えていた。しかし、庭をオープンにしたことで、近隣住民から「この付近が明るくて安全なイメージになった」と喜ばれる効果もあったのだそうだ。

 

資産ではなく資源として残す

 このプロジェクトの実現に一役も二役も買っているのが松村拓也氏(東京都世田谷区)だ。田名オーナーが引き継いだ物件を地域に開く方法を模索している中、松村氏が世田谷区で行った起業セミナーに参加した縁で、コンサルタントをお願いすることになった。

「土地を資産としてではなく、地域住民で活用できる資源にしていく」ために、松村氏が12年一般社団法人日本土地資源協会(同)を設立。笑恵館の運営を行っている。

 

▲カフェスペースはイベント利用のほか、休憩利用も可能だ

 

 将来的には、笑恵館の土地建物は同社団法人に遺贈することを視野に入れている。「私の子どもたちには、この土地は2人に残さないと伝えています。2人分にわけて小さくなった土地が、最終的に売られてしまうよりは、この土地のままで地域の人たちに活用してもらったほうがいいと思ったからです」と田名オーナーは話す。

 新型コロナウイルスの流行中も、区の施設を利用できず行き場を失っていた人々を受け入れていたという笑恵館。オープンから10年、名実ともに「地域住民のよりどころ」になっている。

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