第23回 貸し駐車場内で起きた事故、貸主の責任は?
Q:貸し駐車場の借主が駐車場から車で出る際、誤って別の車にぶつかったようです。駐車位置や傷の形からもその借主がぶつけたのは明らかですが、認めません。どのような対応ができますか?
A:貸主は、駐車場内の事故について原則として責任を負うことはなく、今回の場合でも同様に考えられます。ただし、駐車できるスペースを提供する義務を怠っていたと評価される場合や、民法717条に基づき例外的に責任を負う場合もあります。貸主は責任を負わないにしても、防犯カメラの映像を被害者の借主に提供するなどの協力はできるでしょう。
原則は貸主に責任問わず
駐車場は車の事故が起きやすく、交通事故のおよそ3割が駐車場で発生しているといわれています。 貸し駐車場内で事故が起きた場合、しばしば被害者が「駐車場の管理責任」といった名目で貸主としての対応を求めてくることがあり、苦慮する人も多いようです。では今回の場合、貸主に管理責任は問われるのでしょうか。
そもそも駐車場の賃貸借契約における貸主の義務は、「借主に駐車できるスペースを提供すること」になりますので、駐車場の借主同士の駐車場内の事故を防ぐ義務まで負っているものではありません。そのため、駐車場の借主同士による駐車場内の事故であっても、事故の当事者ではない貸主は、原則として責任を負いません。
駐車場内の事故で貸主が例外的に責任を負うのは、①賃貸借契約上の債務不履行責任(契約責任)、つまり借主に駐車できるスペースを提供する義務を怠っていたと評価される場合、または②民法717条に基づく、不法行為責任が生じる場合です。
①については、例えば駐車スペースが狭くて通常の運転では事故が明らかに予想されたにもかかわらず、何も対策を取らなかった場合が挙げられます。
②については、まずは民法717条の内容を見ていきましょう。
民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
すなわち、駐車場として使用するために必要な工作物の設置や管理状態が安全性を欠いていて、その結果事故が発生した場合は、その責任を占有者(管理している者)または所有者である貸主が負うというものです。
例えば、駐車場内に駐車や通行の妨げとなるようなポールが不必要に設置されていたとします。これを避けようとして別の車にぶつかってしまった場合などは、貸主が貸し駐車場に関する事故について、民法717条に基づく責任を負うことになります。あるいは、車止めの前に不必要なくぼみがあり、これによってフロントバンパーが車止めと衝突してしまった場合などが例として挙げられます。
もっとも、借主同士の駐車場内の事故について、前記①または②にあたり貸主が負うケースは一般的にはないと思われます。そのため、今回の場合でも貸主が責任を負うことはほぼないでしょう。
被害者に対して協力を
しかし、貸主としては被害者に対して責任を負わず、また、これを被害者が理解してくれたとしても、加害者が被害者に対する責任を認めないことも考えられます。被害者から協力を求められた場合は、どのように対応すればいいでしょうか。
加害者が責任を認めなければ、被害者は証拠をもって加害者の責任を追及することになります。そのための証拠として、駐車場に設置されている防犯カメラがあれば、事故時の録画データを被害者や警察に提供するといった協力はできると思われます。
また、そもそも加害者に連絡が取れないときには、貸主が加害者への連絡を取り次いだりすることも協力の一つではあるでしょう。
なお、今回のケースとは別ですが、月極駐車場などでは「駐車場内の事故やお客さま同士のトラブルについて、一切の責任を負いません」といった看板を見かけることがあると思います。しかし、実はこのような看板を設置したからといって、貸主の責任を免れることができるものではありません。
貸主は収益事業として貸し駐車場の運営を行っていることから、それを利用する借主(消費者)には消費者契約法が適用されます。同法8条1項により、貸主(事業者)の損害賠償責任を免除する条項は無効とされるからです。
Point
1:駐車スペースが狭く、事故が予想されるにもかかわらず対策を取っていなかった場合や、安全性に欠ける管理状態だった場合などは、貸主に責任が発生するケースもある。
2:責任を問われない場合も、貸主は被害者や警察への防犯カメラ映像の提供、加害者への連絡が取れないときの取り次ぎなど、問題解決のための協力をすることはできる。
はじめ法律事務所(東京都千代田区)川崎達也 弁護士
2013年の弁護士登録以降、賃貸不動産経営者や仲介事業者などのクライアントを多数抱える。宅地建物取引士の資格を持ち、一棟ビルのオーナーでもある。自身も賃貸不動産経営を行っていることから、法律論を踏まえた、実践的かつ具体的な助言・対応に強みを持っている。
(2024年4月号掲載)
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