【電子版連載】次世代不動産経営オーナー 井戸端セミナー:リアルリノベーションを学ぶ

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建築家から見た次世代不動産経営のためのリアルリノベーションを学ぶ

不動産業界において大きな変化が起こりつつある。そうした中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」は貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指し、主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり勉強会を有志で開催している。今回は、建築家の考え方や取り組み方からリノベーションについて考察する大阪公立大学工学部建築学科の西野雄一郎氏の講座をレポートする。

⼤阪公⽴⼤学 工学部 建築学科 講師
⻄野雄⼀郎氏

[プロフィール] 1985年大阪府生まれ。1級建築士。大阪市立大学講師、大林組 建築設計部に勤務した後、大阪市立大学大学院博士課程、福岡大学工学部建築学科助教を経て現職。共同住宅のリノベーションとセルフリノベを対象とする研究から始まり、戸建て住宅、商店街、学校、まちへと研究・実践のフィールドを広げる。持続的に使い続けられる建築を新たにつくる理論も必要になると考え、そのための計画技術について研究を行っており、「建築を使い続ける社会への転換を加速する」が研究・教育のミッション。

 

リノベのプロセスに建築家はどう関わるのか

 建築家とは1級建築士だけを指すのではなく、建築関係のプロフェッショナルサービスを提供する人を指します。また、リノベには、企画、設計、施工、維持管理、運営といったプロセスがあります。建築士は主に設計と企画に関わりますが、最近では維持管理や運営にも参加する例が増えています。例えば、設計後も顧問契約を結び、入居後の生活空間に関する相談に応じたり、リノベする際に設計者も費用を負担し、サブリース契約を結ぶことで設計者に収益が入る仕組みをつくったりすることもあります。だからこそ、建築家としての考え方や仕事の進め方を知ることは、不動産オーナーの賃貸経営にも役立つと思います。
 そこで、今回は企画から運営まで一貫して関わっている建築家の取り組みについて、私の経験を踏まえてご紹介します。

チームの「協働性」と「アソビ」がプロジェクトの動向を決める

 一つのプロジェクトにおいて、さまざまな考え方やプロセス、チームづくりなどが何によって変わるのかを考えたところ、チームの「協働性」とプロジェクトの「アソビ」が大きな要因であると感じました。
 「アソビ」とは、文字どおりの遊びから仕事がない状態、余裕や余地まで、多くの意味があります。これはスケジュール、予算、図面の書き方などに影響します。「協働性」は、特に施主(オーナー)との関係を指します。建築家とオーナーの関係が近ければ近いほど、設計、施工、企画などすべてを一緒に行うため協働性が高いといえます。それと反対に、すべて任せられる場合は協働性が低いということになります。
 私は特に協働性を大事にしており、オーナーが一緒に関わっていくことでプロジェクトの魅力や面白さが増していきます。そのため、協働性が高いほうがいいと考えています。アソビ度も低いものから高いものまであり、この二つの軸を中心にプロジェクトを解剖していきたいと思います。

実際のプロジェクトから見る協働性とアソビ

 JR阪和線鶴ヶ丘駅近くに屋上のある3階建てのビルを所有するオーナーから、非営利な場所として活用したいと相談を受けました。賃貸物件として貸し出せば賃料が取れる場所を無償で提供し、登校拒否の子どもやその親たちの居場所をつくろうというこのプロジェクトで誕生したのが、「トーキョーコーヒー大阪あべの」です。
 「トーキョーコーヒー」は、「登校拒否」をもじった名前のとおり、不登校の子どもと親たちのための居場所づくりを目的としています。奈良県で始まったこの活動は、2024年6月時点で全国に約380の拠点があり、利用者が安心して過ごすことができる場所を提供しています。

 プロジェクトのスタート時、予算は0円で人件費や材料費もなかったため、関係者のネットワークを活用して材料を集めるとともに教育効果のあるプロセスを最も大事にしました。単に空間をつくるだけでなく、学びの場にすることを目指したのです。
 例えば、屋上の屋根に使用するタープを植物で染めるにあたり、施設を利用予定の親子に植物の知識や色の変化を学ぶ機会を提供しました。設計や施工には大学生も参加し、経験を積む場となっています。参加した学生たちはプロジェクトを通じて他者貢献の喜びを感じることができ、その約4割が今後も関わりたいと話しています。このプロジェクトは、協働性もアソビも高いプロジェクトでした。

人が関わるほどコスト増、事業性とのトレードオフ

 プロジェクトの進行や見積もり、DIYによる参加など、実は建物の設計以外のところは大家でも手がけることができます。そう考えると、ストック活用の現場では「設計だけ」をするタイプの建築家とは異なる在り方が大切になるといえるでしょう。
 協働性とアソビが高くなると、その後のオーナーと建築家の関係性も主体性が高まり、関わりたい人が増えることで持続可能になります。協働性とアソビは施工後の関係性を継続させるためのカギですが、事業性とのトレードオフがあります。人が関わるほどコストも増加し、予算も膨らむ可能性があるのです。
 そこで重要となるのが、価値の評価方法です。所有物件全体での事業性を考えるべきで、単体での採算性だけでなく長期的な視点や波及効果を考慮することが大事です。このバランスを取ることが課題であり、ここを克服すれば先進的なプロジェクトが実現できると思います。

(2024年8月公開)

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