災害対応力の高い物件

災害は「いつ起こる」ではなく、「いつでも起こり得る」として考えるものになりつつある。災害が発生した後、入居者が少しでも安心できる、対応力の高い物件とはどのようなものなのか。本特集では事例を交えながら紹介する。

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災害発生後も自宅にとどまる在宅避難という考え方

地震大国である日本では、東日本大震災以降もたびたび各地で大地震が起きている。また近年は、台風や線状降水帯による水害によって、甚大な被害も発生している。このような自然災害は「いつでも」「誰にでも」起こり得る可能性があると言える。

一方で、公的な施設を利用した避難所は、受け入れる人数にも限りがある。さらに新型コロナウイルスの感染拡大以降、 いわゆる「密を避けた」避難生活が注目されるようになった。

在宅避難とは、災害発生後にも自宅で生活を続けることだ。在宅避難とは、災害発生後にも自宅で生活を続けることだ。そのため、第1に、自宅の建物に損壊がなく、浸水などの被害もないことが条件だ。

そして次に必要なのが、災害発生後に、少しでもストレスのない避難生活を送れる備えをしていることである。例えば、 蓄電池や簡易トイレ、水や食料などの備蓄だ。アットホーム(東京都大田区)が2023年に発表した調査によると、必要とわかっていながら入居者個人では災害に備えることが難しいことがわかる。

そこで防災グッズが物件に備えられていれば、災害発生後の入居者の安心・安全につながる。

備えあれば憂いなしで入居者を守る

入居者、ひいては地域の住民の災害発生後の生活を支える物件づくりの例を見ていこう。

備蓄場所をビジュアルで示す無意識のうちに有事に備える

フージャーストアセットマネージメント(東京都中央区)が23年3月に竣工した。「DUOMAISON(デュオメゾン)池袋」は、共用部にある防災設備の場所と用途がすぐわかるように、 視覚的効果を使った工夫をしている。

例えば、エントランスに設置された各戸分のロッカーだ。
入居者が自由に使えるものでもあるが、そのロッカーの中にはA4サイズほどの段ボール箱が収められており、これが各戸の防災備蓄になっている。その中には大人1人の3日分を想定した水や食料、ライトにラジオがある。「防災用品を居室にしまい込んでいると、いざという時にどこに置いたんだろうかと探してしまいます。その点、物件への出入りのときに目にするロッカーに災害時の必需品が入っていれば、すぐに取り出すことができます」と同社の開発二部企画課サブチーフの佐々木氏は話す。

そして、ロッカーはただ防災備蓄をしまっているだけではない。ロッカー自体にもペットボトルをデザインしたサインを貼ることにより、無意識のうちに防災備蓄の収納場所は覚えられる効果を期待できる。

携帯充電用の電気発電機や物件の敷地内にある下水管と直感として使うマンホールトイレ設置用のマンホールにも、統一されたデザインでサイトが貼ってある。「視覚的に訴えることで、無意識のうちにどこに何があるのか植え付ける効果があると思っています。」(佐々木氏)

いざ災害が起きた際には、共用部を地域の住民に開放するという。そのためにも、竣工後の最初の入居者は、町内会のメンバーと共に災害時を想定しマンホールトイレの組み立てや バールなどの道具の使い方を訓練したという。

同社ではこれまでも既存の物件で 防災備蓄を行ってきたが、デュオメゾン池袋ではそれを一歩進めて「いかに日常生活の中で、目につくようにするかを考えた」と話す佐々木氏。災害発生後のパニックを少しでも抑えられ、対応力を上げていくことができるのだろう。

耐震性と防災設備を備えて入居者も資産も守る

高松建設(大阪市)が1月に竣工した「南麻布仙台坂レジステンス」は、築45年のRC造マンションの建て替えに伴って建てられた新築物件だ。

物件オーナーは、旧耐震基準の建物を建て替えるからには、耐震性に優れた物件にしたいと考えていた。さらに、耐震性に加えて防災設備を備えることにした。

東京メトロ南北線布十番駅から徒歩5分という好立地のため、競合の多いエリア。「築年数を経るに従って、競争力がなくなるのが感じられる。それであれば、プラスアルファとして 安心で付加価値の高い物件を造りたい」というオーナーの思いを反映した形だ。

屋上に16基の太陽光発電設備を設置。災害時、停電が起きた際には、共用部にあるコンセントを使って携帯電話の充電を行うことができる。物件の裏手には井戸とかまどベンチを備えた。内見の際に、特にファミリー層からは安心の声が上がっていたという。

そのほかの工夫として、外壁はタイル張りを避けた。大地震発生の際、はがれた外壁の落下による入居者や通行人の負傷を防ぐためだ。また、居室に目を移すと、あえてタンク付きトイレではなくタンク付きトイレを採用した。メンテナンスがしやすく、タンク内に水がたまっていることで、断水時も水を流すことができる。オーナーは過去に自主管理をしていた経験があるという。そこで「家主は入居者のを預かっている」という思いの強さを細かい点まで反映した。

災害後に強みを見せるためには、建物そのものの耐震性が高くなければならない。この物件には、建築基準法で定める地震力を15%アップしても耐え得る 耐震性を備えているという。「建築基準法にのっとった耐震性であれば、もちろん人命を守ることはできます。当社では、さらにそれをさらに強くすることで、建物という資産を守ることができます」と高松建設東京本店設計本部の斉藤啓介代理は話す。

既存の物件にも導入可能 見せる備蓄で意識を刷り込む

「防災を意識してもらうには物件のエントランスなど常に目に付くところに備蓄品を置いておくことが大事。それを念頭に開発したのが「BISTA(ビスタ)」です」と話すのはファシル(静岡市)の八木法明代表取締役だ。

BISTAは、災害発生時に必要な防災用品を厳選し、コンパクトに備えたスタンド。カセットボンベ式発電機のほか、スマートフォンを10台同時に充電可能な災害用充電器など充電可能な災害充電器など停電対策を中心にした備蓄品が収納されている。

震災後の東北地方や熊本県での調査の結果、被災者が何より不安を感じたのは停電時だったこともわかった「今は連絡も情報収集もすべてスマホで行う時代。災害後の書道にももちろん必要です。そこでBISTAには水・食料や毛布ではなく女性でも手軽に扱うことができるカセットボンベ式の発電機をメインに揃えました。現在は蓄電池のラインアップも増やしています」(八木代表取締役)

20年の発売当初は企業の導入が主だったが、最近ではデベロッパーからの問い合わせも増えたという。今後は防災備蓄もマンションの付加価値になっていく可能性がある中、「災害発生直後はパニックを起こしている。そんなときでもすぐに使うことができるよう、「見せる防災」で、日常から入居者に防災意識を刷り込むことができると考えます」八木代表取締役は話す。

日常と災害時の境界をなくして入居者を守る

普段の生活の質の高さが災害時に入居者を守るという考え方をすることもできる。

避災時の安全確保だけでなく日常生活の質もアップさせる

大東建託グループ(東京都港区)は18年から、防災プロジェクト「防災と暮らし研究所「ぼ・く・ラボ」」を立ち上げ、防災賃貸住宅の商品開発や地域の防災拠点について研究を進めている。

防災賃貸住宅として開発した商品は2種類ある。一つ目は、22年3月に販売を開始した水害に特化した防災配慮型賃貸住宅「ぼ・く・ラボ賃貸niimo(ニーモ)」だ。同商品は1.5m程度の浸水を想定。2,3階は木造の地上3階建て。1階部分は、浸水の被害に遭っても原状回復をしやすいRC造のピロティとした。平時には、ピロティは屋根付き駐車場として使用できる。

居住空間を2階以上に集約することで、被災直後や復旧作業時に在宅避難ができる設計とし、賃貸事業の継続可能性を向上させた。河川沿いなどのハザードマップにおける浸水想定エリアでの建築に適している。

二つ目が、非常時に 必要な「備蓄」と、共助につながる近隣住民同士の「コミュニティ形成」をコンセプトにした防災配慮型の賃貸住宅。「ぼ・く・ラボ賃貸yell(エール)」。同商品は22年10月に販売を開始。木造2×4(ツーバイフォー)工法の2階建てだ。

 防災備蓄の面では、一般的な同社商品と比べ2倍の収穫量を確保した収納ペースを設置。防災備蓄に限らずとも、広い収納は物件の価値アップにつながっている。

コミュニティ形成の面では、サンルームや奥行き180cmのバルコニーを設けている。こうした設備の利用を促進することで、入居者意識を外に向け 住人同士のコミュニティ形成を促す設計にした。

どちらも特徴としては、災害時に役立つだけでなく、日常生活での付加価値となることだ。「平常時」と「災害時」を二つのフェーズに分けて考えるのではなく、平常時の快適さが災害時に住人を守ることにつながるという概念は、「フェーズフリー」と呼ばれている。ニーモは一般社団法人フェイズフリー協会(東京都文京区)の認定も受けた建築プランだ。

ニーモの1棟目は神奈川県綾瀬市に立つ戸建て賃貸住宅。商品開発課の下平孝洋課長は「平常時にも災害時にも機能する「フェーズフリー」という考え方が生きた好例だと思います。防災配慮型の住まいという大仰になりがちですが、通常の住宅として気に入られ、万が一の場合にも役立つ防災機能が備わっているという「備えない防災」もフェーズフリーの考え方の一側面」なのですと話す。

賃貸住宅にも取り入れられ始めるフェーズフリーの概念

大東建託の建築プランに見られるような「普段の暮らしを豊かにしているものが、もしものつきに役立つ」という考え方はフェーズフリーと呼ばれている。「災害に備えましょうという提案は、実はとても難しく「コストがかかる」「場所がない」という言い訳にもつながりやすいものです」と一般社団法人フェーズフリー協会の佐藤唯行だ表理事がはなすように、大きな災害が起きた直後は「災害には備えが必要だ」という意識が高まるのに、それがなかなか定着しない。そこで「平常時」「災害時」を二つのフェーズに分けて考えるのをやめようというのがフェーズフリーの概念だ。例えば、「災害時に非難経路を確保しやすい住まいをつくりましょう」と提案しても、家主にとっても入居者にとっても魅力を感じにくい物件が頭に思い浮かぶだろう。だが、これを「各部屋の仕切りをなくし、回遊性の高い空間をつくりましょう」という表現にすると「付加価値の高い間取りの提案」として受け入れられる。近年では、フェーズフリー協会に対する賃貸住宅のデベロッパーからの問い合わせも増えてきている。

設備も人間関係も平時からイベントが防災につながる

川崎市に5棟37戸の賃貸物件を所有する木村憲二オーナー(川崎市)。ガソリン式とカセットボンベ式、両方式の発電機と予備のボンベ、充電式の蛍光灯にテント、ペットボトルの水など、 物件共用部には多くの災害向けの備蓄を準備している。だがこれらは全ては「来るべき非常事態」だけのために準備しているわけではないという。すべての物件を地域に開いて開催するイベント時に使う備品として買い揃えているのだ。

専業家主になった08年当初より、防災備蓄の必要性については認識していた。というのも、物件があるエリアは多摩川に近く、大型の台風が直撃して浸水被害を起こすことも十分にあり得る立地だからだ。「そうはいっても、防災のためだけにグッズを集めたり準備したりするのは限界がある」と感じていたそうだ。

そこで、専業家主になってから始めていた地域活動やイベント開催時に使う備品が、ひいては災害発生時に役立つのではないかと考えるようになった。

「備蓄としてずっとしまい込んでいると、充電池が切れていることや消費期限が過ぎていることに気付けませんが、イベントで定期的に使うことで状態の確認ができます」(木村オーナー)

また、イベントを開催することで入居者同士あるいは入居者と地域住民が顔見知りになっていく。その関係性が災害発生時には重要になってくることを痛感したのは、19年に台風19号が川崎市を襲った時のことだ。

入居者同士がつながる「LINE」グループ内で、防災の知識のある建築家が情報を発信。RC造の3階以上に住む入居者は慌てることなく住宅避難を選択することができた。「顔見知りの関係だからこそ、信頼できる情報を入居者同士でシェアできたと思っています」と話す木村オーナー。

災害時にどれだけ安心して初動を起こせるかは、コミュニティの存在にかかっています。そういう意味でも、災害に役立つツールを地域イベントで使うことは、顔の見える関係性をつくり、防災備蓄をローリングストックできるという二つの側面から意味があるのです」(木村オーナー)

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