ここ数年、集中豪雨による河川の氾濫が日本列島を襲う事態が毎年発生している。そこで重要度が増してくるのが保険選びだ。思わぬ場所や地域で自然災害が発生している昨今、火災保険はコストカットの対象にはできなくなってきている。どう選びどう活用していくべきなのかを紹介する。
基本を知る まずは契約内容の見直しから
保険の基本について知らなければ、自身の要望に沿う内容で契約をしているかどうかはわからない。「とりあえず加入しておこう」「保険代理店はプロだから任せておけば大丈夫だろう」と考えている人は少なくないだろう。基本を押さえて保険の見直しの必要があるかどうかを確認しよう。
正しい契約内容か見直し解約は一日も早く行うこと
保険代理店なのに火災保険の内容に詳しくなかったため、家主が間違った内容で火災保険を契約させられたケースがある。全国で契約数や売り上げが上位で表彰されるほどの優良店だったにもかかわらず、建物の構造や用途を間違った内容で家主に加入させたというものだ。本来なら半年で3万3000円程度の保険料で済んだのに、約8万円の保険料を支払わせていた。
専門家を頼らずにどのような内容で加入しているかを理解するのは容易ではない。こうしたトラブルに巻き込まれないために、契約している保険代理店とは別の保険代理店に見直しを依頼するのも有効だ。そこで、まずは以下の三つに当てはまるかどうかをチェックし、一つでも該当するなら、保険の入り直しを検討した方がいい。
□ 保険証券をしまい込み、補償内容を把握していない。
□ 長期 (10年) 一括払い契約をしており、補償の見直しは長年やっていない。
□ 自身の火災保険をあまり使いたくない。
火災保険を解約して入り直すことは損だと考える家主もいるかもしれないが、解約の時期は早ければ早いほど返戻金は多い。補償内容を吟味し、確実に守ってくれる保険に入り直した方が、有事の際は結果的に得をする。
【保険金額】再建築費用が基準となる
火災保険に加入する際、損害保険会社が販売している保険商品を保険代理店が顧客にヒアリングを行いながら必要な商品を勧め、契約していくのが一般的だ。損害保険会社は金融庁が付与する免許を取得している企業で、2020年4月の時点で32社あるが、保険代理店が提携する保険会社は専任のケースや複数提携しているケースもある。
保険金額決定の際に基準にするのは、契約時のタイミングで、「対象物件が全損したときに更地にして建築し直した際にどの程度の金額がかかるか」を算出した金額を基準に、 「何%の補償を希望するか」だ。
建物の構造、延床面積、立っている地域を考慮して計算する。火災保険をよく活用し、有事の際は建て直す考えである家主は基本的に補償の割合を100%で契約する。建て直さない場合は、物件購入額と更地にするためにかかる費用を計算して金額を決めるケースもある。
ただし、個人ではなく法人の場合、保険金が雑収入となり、償却資産残高との差額が課税対象になるため、過大な保険金額の設定は慎重に行わなければならない。
【保険料】構造や用途により異なる
支払う保険料は、構造、用途、耐火建築物区分、所在地、建物内で行う職種による作業内容、消火設備の有無などによって決定する。住宅用火災保険料の支払い方法は円払いと長期一括払いを選ぶことができる(保険の契約期間が5年を超えると年払いができない商品もある) 。保険料は年々値上がりの傾向があり、21年には平均8%の値上げが予定されている。値上がる前に長期一括払いを済ませておく傾向が強まっているという。
【適用対象】必要か不必要かは選べる
「火災保険」という名称のため、中には火災にしか適用されな いと思っ ている家主もいるかもしれない。だが、補償対象は多岐にわたる。火災のほか、落雷や風災、ひょう災などの気象による災害が一般的だ。
契約者が「必要ない」と判断すれば契約内容から除外し、保険料を安く抑えることもできるが、除外したオプシ ョ ンに限 っ て被害が発生してしまうケースもなくはない。
高台に立つアパートで発生
水災オプションを付けず大惨事
大類裕人オーナー(33)(北海道札幌市)
アパート3棟、戸建て55戸など合計81戸を所有する大類裕人オーナー(札幌市)は、高台に立つアパートで水災オプションを除外したことを悔やむ経験を持つ。
当該物件は北海道岩見沢市に立つ築40年を超えたアパートで、岩見沢市内全域で見て高台に位置していた。念のためハザードマップで調べても、水害の危険性は低いエリアだった。そのため、保険料が2割ほど割高になる水災オプションを除外し、火災保険に加入していた。
災害が発生したのは2018年の8月下旬。岩見沢市を集中豪雨が襲った。被害のあった物件は高台にあったものの、盛り土をして50cmほど高くなった道路がアパートの周りを走っていた。
高台に降り注いだ豪雨が低地に流れる際、周りの道路よりも低くなっている大類オーナーのアパートが立つ地面を通り道とし、勢いよく流れていったのだった。
大類オーナーが除外した水災オプションは、45cm以上の床下浸水に対し補償する内容で、豪雨のあった当日浸かったのは50cm。保険が適用される水災だった。
1階は資材置き場にしていたため、中の資材は被害を受け、シャッターが水圧でひしゃげて壊れてしまった。仕方がなく、4万円をかけてギリギリ開閉ができる程度に直した。保険に入っていれば、もっとしっかりと修理をすることができただろう。