跡取りはツライよ 長男のための相続対策

不動産資産の多い家主・地主にとって、相続の中心となるのは後継者である長男だろう。

相続について長男がセミナーを受講したり、書籍を読んだりして、熱心に学んでも実際相続が発生すると、もめるケースは少ない。今回は相続でもめてしまった事例を紹介しつつ、長男が直面する相続の問題解決の糸口を探る。

遺産分割争いは20年で1・5倍に増加

 相続でもめたくない─。そう思っている人が大半だろう。だが、相続の争いは増加傾向にある。左のグラフは家庭裁判所における遺産分割に関する審判または調停での新受件数の推移だ。

 20年間で1・5倍の1万5000件超に増えている。 裁判所では新受件数は、高齢化の影響などにより、長期的に見れば増加傾向にあるとみている。2019年のわが国の年間死亡者数は137万人で、戦後最多を記録。

 30年には160万人を超えるという推計値も出ており、必然的に遺産分割に関する裁判所案件は増えるのかもしれない。 

 ただ、注目したいのは、手続代理人弁護士が関与している件数が増加していることだ。遺産分割事件において当事者のいずれかに手続代理人弁護士が関与した事件の割合は、長らく6割台で推移していたが、18年には79・7%に達した。しかも、手続代理人弁護士の関与がある事件の方が、その関与がない事件よりも平均審理期間が長い。

 近年相続に関する書籍やセミナーなどで学ぶ機会は増えている一方で、裁判所で代理人弁護士を立てて争うケースが増えているのはそれだけ相続問題が難しい証しだろう。特に不動産資産家である地主となってくると「長男」と他のきょうだいとの関係が難しい問題となってくるのだ。その難しさを実感する二つの事例を紹介する。

次男の主張受け入れ納税期限4日前で合意

遺言書を完成できなかった父

「遺言書さえあれば、こんな大変な思いをせずに済んだはず」

 こう話すのは神奈川県の地主、山中さん(仮名)だ。山中さんの父親が亡くなったのは、2018年4月。相続人は、母親と次男、長女と長男の山中さんの4人。遺産分割協議が

 まとまったのは、なんと申告期限の4日前。そこから税金の工面などを金融機関と調整して、申告を終えたのは、期限当日の午前中だった。そんな綱渡りの申告になった理由は、次男が自身の主張を曲げなかったからだ。

 10年前、当時サラリーマンだった山中さんは、体調を崩した父親から家業の不動産賃貸業を継ぐことを懇願された。立地は駅からバス便で決して良くなかった。だが、山中さん

は勉強会や本で学び、満室稼働を実現。そんな山中さんの経営ぶりに父親も安心して任せていたという。 次男もときどき実家に顔を出すと「いつも兄貴ありがとう」とねぎらいの言葉を掛けてくれ、きょうだいの関係は決して悪くなかった。

 山中さんは相続の勉強もした。家業に入ってからは2年おきに相続税のシミュレーションをして税金対策を考えていた。だが、次男のことが気になっていた。次男は会ったとき

は優しい言葉を掛けるものの、金遣いが荒く、父親に生前お金を援助してもらうことも少なくなかった。

「父親に相続が発生したときに、絶対に弟ともめると思っていたので、父親に遺言書は書いてほしいと頼んでいました」。

そんな山中さんの心配をくみ取り、父親は銀行へ相続の相談に行き、遺言書作成の準備をした。ただ、何度も作り直して、なかなか完成に至らなかった。

 その後、父親の体調は悪化し、入退院を繰り返すようになった。最後の入院の前に「この遺言書を退院したら出そうと思うのだが、もしこれを出すことができなかったら、もめたときに使ってくれ」と言って、山中さんに遺言書の下書きを託した。

 その後、父親は結局退院することなく帰らぬ人となってしまった。四十九日が終わり、家族全員が集まり、話し合った。山中さんは父親から預かった遺言書の下書きを皆に見せた。

内容を見ると、母親は半分、子どもたちはそれほど大差のない内容だった。

だが、その内容に案の定、次男は不満をあらわにした。次男は自身が欲しい不動産を主張し、それ以外は受け付けないと言い始めた。話がまとまらなかったため、申告期限4カ

月前から弁護士を立てた。ところが、次男とはまったく連絡が取れなくなってしまった。自宅に行っても、居留守の様子。手紙を書いたり、親戚に依頼して説得してもらった。その結果、申告期限5日前までまったく連絡が取れなかったが、「お前の主張は聞くから」という話を長女経由で伝えたところ、実家にやってきた。

そこで、ほぼ次男の主張を家族全員がのみ、合意。最終的に、母親4割、長男2割、次男3割、長女1割の分与。さらに良い不動産はすべて次男のものとなった。「二次相続ではもめないように対策を考えます」と山中さんは語った。

長男の体験メモ

遺言書があれば、ここまでもめることはなかった。またもし申告期限に間に合わなかったら、延滞税などがかかりさらに大変なことになっていた。遺言書は作成してもらわないといけない。

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